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岩井先生の経済教室 [市場と経済]

Facebookに書いたノート、せっかくだからこちらにも載せておきます。


頭の整理と復習のために。

昨日の日経新聞の経済教室は、岩井克人先生の「『株主主権論』の誤りを正せ」でした。格差の拡大という問題は、資本主義というシステムそのものに由来するものなのか、というテーマです。前半は、あの大ブームを巻き起こしたピケティの「21世紀の資本」を取り上げて、現実的に考えると、ピケティの結論では、資本主義そのものが格差を拡大させる傾向を持つとは言えない、というお話。

それではアメリカやイギリスで起きていることは何なのか、というのが後半の議論。格差が極端に拡大しているのはこの両国で、その結果Brexitやトランプ現象が起こっていると考えられるわけです。

アメリカのケースで格差拡大の様相を詳しく見ると、実はピケティがいうような資本の利益成長よりも、経営者の報酬が急騰したのが大きな要因だということが分かる。で、どうしてそうなってしまったかという原因を「株主主権論」に求めています。つまり、会社は株主のものだから、株主のために資本収益率を高めることだけが経営者の仕事だ、という考え方に問題があるんじゃないか、ということ。そこで忘れられているのは経営者の「忠実義務」であると指摘しています。

この話は以前、「契約」と「信任」の問題としてレクチャーを聴いたことがあります。資本主義は、「損得」という単純な原理で動くという普遍性を持っていて、経済主体同士は「契約」で結ばれている。契約関係は、お互いが対等であることが重要だけれど、対等ではないケースがある。医者と患者の例が分かりやすいけれど、その場合両者は単なる「契約」関係ではない。そこには「信任」が無くてはならない。医者は自己の利益を追求するのではなく、患者のために最善を尽くす、という信任関係が無くてはいけないのだ。そして、実は資本主義の社会で、そういう対等ではない契約関係が、実はたくさんあるのではないか、という話。

さらに、その「対等ではない契約関係」の一つに、「会社という法人とその経営者の関係」も当てはなるのではないか、という話が出て来ます。経営者は会社という法人と契約を結んで雇われているわけですが、会社という法人は、経営者によって初めて経済主体として機能するのだから、会社と経営者は対等であろうはずがない。医者と患者のような信任関係、つまり本来経営者は、会社という法人のために最善を尽くす「忠実義務」を負っているのであって、自己利益の追求に走ってはいけないものなんだ、というのです。

対等じゃない主体同士が信任関係のない契約を結んでしまったから、資本主義が上手く機能しないのだ、だからその間違いのもとである「株主主権論」を手直しすれば、資本主義の未来にはまだ希望が持てるのだ、というのが昨日の話の結論。資本主義は、格差の拡大という病気を治せなくていつか死んでしまうのかと思ったけど、病気の原因が分かってよかった、みたいな感じで書いてありましたね。

どのように手直しすればいいのかという解決策は、まだわからないのです。会社は誰のものか、という議論にもなるでしょうし、ガバナンスの考え方にも影響してくるでしょう。日本企業はそもそも株主の権利が弱すぎて資本効率の低さが問題になっているわけですが、問題の所在がアメリカとは全然違うというのは明らかです。コーポレート・ガバナンスも、あまり英米の真似をしないほうがいいんじゃないでしょうか。



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