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「バーチャル」の導入で、改めて考えてみる「株主総会」 [株主総会]

株主総会のハイ・シーズンです。今年はライブ配信で参加します。と言いながら、バンダイナムコが、「抽選で当たれば総会に出席できる」という方式を採用していたので、応募してみました。結果はハズレでしたが。

前々回の投稿で、総会をリアルと同時にライブ配信するハイブリッド型に、「参加型」と「出席型」があるというお話をしました。「参加型」は単なるライブ配信とほぼ同義で、株主として法的に出席していることにはなりません。現状ではこれが主流です。これに対し「出席型」法的に効力のある「出席」です。そこで議決権行使もできるし、動議も質問も可能です。出席している株主の票は法的に有効なのですから、本当に出席しているかどうか確実でなくてはなりません。なりすましは防げるのか、本人確認はできるのか、配信がトラブって途中で切れたら議決権の扱いはどうなるのか、総会中の質問はどのように受け付けるのか、等々、周到な準備が必要でしょう。

慎重な日本の企業は、今年はまだ「出席型」は採用しないのだろうと思っていましたが、日本企業らしからぬところが一社、上場子会社も含めれば二社から、「出席型」のハイブリッド総会を行うとの招集通知が来ました。ソフトバンクグループと、ソフトバンクです。何といいますか、流石ですね。

「出席」と「参加」の最大の違いは議決権の扱いであるわけですが、そもそもリアルの株主総会の場で、どのように議決権が扱われているかと言えば、議決権行使書の郵送やインターネットで行使する場合とはかなり異なります。法的に何が正しいかということは置いておいて、事実上行われていることは「拍手による賛同」のみです。個別に反対したいと思う議題があっても、意思を表明する手立てはありません。議決権行使書は受付で回収され、各株主は総会の場で拍手によって賛同することになっているのです。総会の場で「反対」が議決されるということがあるのかどうかわかりませんが、いずれにしてもその場で全員一致の「拍手」に参加するのみです。

もっと現実的なことを言えば、ほとんどの株主総会は、始まる前から議決権の事前行使によって、既に結果が分かっています。はっきり言ってしまえば、総会は議決の場としての役を果たしてはいないということになります。かつては総会が議決の場であることを盾にとって活動する総会屋さんという人たちが存在しましたが、健全化の進んだ現在はそれもなくなりました。審議しましょう、議決しましょう、というのは、現実には「お芝居」のようなものなのです。

だからと言って株主総会に価値が無いわけではありません。それは情報公開の場であり、株主とのコミュニケーションの場として大切な役割を果たしています。会社にとって重要な決断を発表したり、会社の進む方向や目標を示し、決意表明したりするには、株主総会という正式な場は、最も相応しいと思います。そう考えると、今後一般化すると思われる株主総会の同時配信は、コーポレートガバナンスの強化という意味でも、画期的なことと言えるかもしれません。

今年の株主総会は、ライブ配信を行う会社を除けば参加者が大幅に減るわけですから、ガバナンス面では残念ながら一歩後退です。特殊な事情ですから、それは仕方のないことです。ただ、今回受け取った招集通知の中で、いくら何でも問題があるんじゃないかと感じたケースが一社ありました。

その招集通知には
「株主の皆様にご来場いただくことなく、当社役員のみで開催し、~(後略) 」「当社株主総会へはご来場されないようお願い申しあげます。」
と書かれています。株主に向かって、「株主総会は役員だけでやっておくから来ないでね。」というわけです。ライブ配信の案内も無いようですね。

これは伊藤忠商事から届いたものですが、これほどの大企業が行っていることですから、法的な問題はないということなのでしょう。そうであっても、これは常識の問題ではないでしょうか。昨今コーポレートガバナンスということについては日本も厳しくなりましたが、多くの企業にとっては「何をやっておけば許されるのか」という課題であるに過ぎないのかもしれません。

もちろん「形」は重要です。ガバナンスというある意味曖昧な概念を客観的に判定するには、形式的な要件を満たしているかどうかは重要です。しかし、いわゆる仏像掘って、なんとやら、になっていないか、それは案外「常識」の世界のようにも思えます。そうなると、機関投資家より個人投資家が活躍しなくてはいけないのかもしれません。

経済産業省では、新型コロナ対策として株主総会をどう執り行えばよいか、という指針を示しています。もちろん伊藤忠のようなケースはその範囲にはありませんが、お役所としては、「会社法で定められていることであり、民間の主体同士の話ですから、役所からああしろこうしろというべきことではない。」というのが公式な立場のようです。

ガバナンスというのは個々の株主と投資先の企業との関係で成り立っている、というわけですね。そう考えると、やはり株主総会はより良いガバナンスに貢献し得る機会なのではないでしょうか。欲を言えば、株式会社の法体系も、実態に合ったものにしてもらえるといいと思うのですが、法的な存在と実態の乖離を、専門家はどう考えているのでしょうね。

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