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「ガバナンス」について 頭の体操 ~ 日産の株主総会 [株主総会]

株主総会のネタが5社分も溜まってしまいました。時系列に逆らって、後入れ先出しでご報告します。

まずは月曜日にライブ配信で参加した日産。誰もが知る「事件」もあって、昨年は当初の予想を遥かに超えて、業績も株価も低迷したわけです。会社からの事業報告は、掻いつまんで言えば、むやみな成長戦略を反省し、戦線を縮小して足もとを固めます、ということ。生産拠点を減らす。投入モデル数を絞る。マーケットも日本・中国と北米以外はアライアンスに頼る。経費削減、選択と集中

会場の株主からの質問は従来通り整理券方式。当然ながら厳しい質問が並びました。主なものを、出てきた順に列挙してみましょう。

1. 社外取締役のうち執行役を兼ねていない9名の報酬削減が無いのは何故なのか。昨年から在任の取締役は責任があるのではないか。報酬削減すべきではないか。管理職も報酬削減の対象ではないか。

2. ゴーン氏の件で何か発言することはないのか。

3. 社内の取締役はルノー3名に対し日産2名。フランスは車の技術で劣っていると思うが、このバランスで大丈夫なのか。

4. 日産の将来に大変な危機を感じる。大改革が必要と考えるが、そのためには強力なリーダーシップが必要ではないか。一体だれが本当の日産のリーダーなのか。こんな体制では危機を乗り切れない。取締役の筆頭が社外とは一体どういうことか。内田社長の意思は経営に通じているのか。

5. 不透明だから通期予想を出せないというが、トヨタは具体的な数字を発表している。サプライヤーを安心させるためには必要ではないか。

6. 電動化で打開策というが、他社も電動化には注力している。それだけで日産が戦えるとは思えない。トヨタのスマートシティ構想や、ホンダのロボットまたは航空機に負けない将来の姿を描いてほしい

7. 技術者がいくら優れていても力を発揮できないのは、知財の面が弱いのではないか。

8. 「信頼」を失ったことが最大の問題ではないか。ゴーン氏の不正と決めつけているが、日産は彼に弁明の機会も与えず、検察と組んで留置場に放り込むような姑息なやり方をする会社、と思っている人も多い。この事態をどう回復するのか。

9. 日産は「売れる車」を作っていないと思うが、その認識はあるのか。電気自動車も、先行したはずなのに売れていないではないか。

整理券方式ですと、事前に時間をかけて準備しているはずなので、もちろんすべての質問が的を射ているとは言いませんが、耳を傾けるに値する質問が多いように思います。

質問の焦点は、業績に関することももちろんですが、日産の場合はガバナンスに絡む質問が特に興味深いのではないでしょうか。あのような事件があって、委員会制度が有効に機能するのか、関心の集まるところです。

1の質問に対する報酬委員長の回答は、「執行と監督の分離」ということです。執行役を兼ねない取締役は監督が任務であって業務の執行に責任はない、だから報酬も減らない、というわけです。それが教科書の答えなのでしょう。でも質問の後半にも頷ける点はあります。

監督した結果「よし」とした経営陣が、あのような事件の発生を許し、その結果業績が悪化しているんですよね?でも監督者に責任はないという。では監督とは何をすることなのだろうかという疑問が湧くのは、ごく自然な成り行きであるように、私には思えます。私もよく分かりません。はっきり言ってしまえば、ガバナンスの教科書は正しいのか、という疑問です。監督と執行は、本当に分離できるのかという疑問です。

4の質問も、ガバナンス制度に対する疑問といえるかもしれません。もしかすると、ガバナンスというものが、宿命的に負っている矛盾のようにも思えます。

日産の招集通知を見ると、取締役は明らかに社外が中心となっていることが分かります。取締役会の議長をはじめ、指名・報酬・監査の各委員長は当然社外、数のバランスも、社外7名に対し社内は5名です。こういうのがガバナンス優等生なんですね。そして取締役の序列の後ろから3番目に載っている社長が、業務執行の責任を負っている。でも本当にそれでリーダーシップ、発揮できるんですか?というのが4の質問なわけです。
 
この質問者は多分、質問の常連なのでしょう。元社員かもしれません。初めに、質問は一人1問2分以内で云々、と注意事項の説明があったにもかかわらず、完全無視。計っていませんでしたけど、15分くらいは演説なさってたんじゃないでしょうか。

「ガバナンス」と「リーダーシップ」というのは、そもそも相容れない部分があります。経営者の独裁を防ぎ、暴走を止めるのがガバナンスの役割のひとつですから、当然と言えば当然です。両者のバランスがうまく取れていることが理想なのでしょうけれど、日産のように過去に深刻な問題が発生すると、そのバランスがガバナンスのほうに傾いてしまうのではないか。しかも強力なリーダーシップが何よりも必要な時に。一旦バランスが崩れると悪循環に入ってしまうのではないか…。4の質問者の心配は尤もなことです。

それから8の質問も、相当深刻ですね。ゴーン氏の件についてはスキャンダラスな取り扱いもされているでしょうし、実際様々な見方があるのでしょうが、「事件」によって失われた日産ブランドの価値の大きさを改めて認識させられます。

ここで話題に取り上げた質問は、会社の回答で質問者が納得できるようなものではないかもしれません。日産という会社の問題であるだけでなく、もう少し幅広く、会社のガバナンスということについて考えさせられます。しかし、これがもしもバーチャル・オンリーの総会で、質問を会社が選択できるとしたら、有意義なQ&Aにはならなかったかもしれません。事前チェックされない質問は、やはり必要でしょうね。

余談ですが、7の「知財」の質問の中で質問者が、見習うべき企業としてデンソーと三菱電機を挙げていらっしゃいました。三菱電機は知財に注力しているという話を、2年前に投稿した記事の中で触れているので、知っている人は知っている、とちょっと嬉しくなりました。ちなみに次回の投稿は、「三菱電機の総会」の予定です。


→ 2019年 臨時総会
→ ゴーン氏 逮捕劇
→ 2018年 株主総会
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