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新年の雑感 ~「スワロウテイル」~ [市場と経済]

スワロウテイル」という映画がありまして、1996年の公開という、そこそこ古い映画ですが、見たのは昨年の巣ごもり生活中。タイトルと映画のポスターの図柄に見覚えがありました。

舞台は近未来の東京のようにも見えるYen Townと呼ばれる都会と、その荒れた郊外やスラム街。他所からやってきた中国人が大勢住んでいて、三上博史やCharaの演じる登場人物もそこに住む中国人という設定。ちゃんと中国語で演じています。特に面白い話とも思いませんし、公開当時に見ていたら何も感じなかったかもしれませんが、描かれている時代の景色、それが1996年に作られたということに、心を揺さぶられました。

東西の「壁」が崩れ、なし崩し的にグローバル化の進んだ時代。日本にもアジアを通じてその波が押し寄せていました。「アジアの純真」なんて言う歌も流行りましたが、今にして思うと、無秩序なイメージがグローバル化の勢いを上手く歌っていたと思います。「スワロウテイル」に漂う空気は、その無秩序さの一方で、熟しきって甘ったるい薫りを放ちながら朽ち始める日本経済を象徴するかのようです。

Yen Townというのも、なんという絶妙なネーミングでしょう。1995年の「¥」は最強でした。本当に世界中が買えそうな勢いで、私もふだん着る服の多くをカタログ通販でアメリカから買っていました。まとめ買いすれば郵送料を払っても安かったのです。生活実感だけではなく、購買力平価の図(下のグラフです)を見ても、円の強さははっきりと見てとれます。赤の「消費者物価」と紺色の「実勢相場」のギャップがそれを表します。あの時が歴史的に見ても「最強」だった、と分かるのは、それなりの月日が経ってからですが、市場の中に居る専門家より、外に居る映画人のほうが、真実が見えていたのかもしれません。

最近の円安で、円の購買力が50年前と同じになった、と書かれた記事を見かけました。それはこの図の右端で、赤の線と紺色の線が交わっているということを表します。円高に振れるたびに、この国では「大変だ、大変だ」と騒いできました。内外の物価が均衡するレートに対して高すぎたのであれば、そう言って騒ぐのも良いでしょう。それがやっと均衡するレベルまで是正されたわけです。(50年前が均衡点と見做されている、という議論についてはここではしませんので、他で探してください。)

実力以上に円が評価されてきた背景には、色々な要因があるでしょう。当初は経済成長力だったでしょうし、それが衰えた後も、日本は投資先や投資する人が居ないだけで、お金はある国ですからね。他国に比べれば社会も安定していますし、国民も一応勤勉です。長年かけて、そうしたプレミアムが縮んできたというわけです。

過大評価が是正されたという意味では、過度に悲観しなくてもいいと思いますが、このグラフを見ていると、高すぎた円が安くなって是正されたのではなく、物価のほうが下がって是正されているように見えます。心配なのはその辺りじゃないでしょうか。これまではデフレが止まらない背景に、円の慢性的な過大評価があったのかもしれません。今後はデフレ要因が一つ減るということになるならば有難いこと、紺色のラインに押し上げられる形で、赤のラインが上向くよう願いたいものです。

構造的に円安になっているとは、まだ思えません。世界的に景気の良い時は円安になるのが普通です。お金だけはあって投資機会の乏しい日本から、投資機会の多い海外へ円が出て行くからです。去年から今年にかけては、まさにそうなっているんじゃないでしょうか。個人の株式投資も然り、ですね。

今年もよろしくお願いします。

(図は「公益財団法人 国際通貨研究所」のホームページからお借りした「ドル円購買力平価と実勢相場」のグラフです。クリックすると大きく見られます。)

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