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為替は理解が難しい、という声に応えて [市場と経済]

円安が不安だ、という論調が盛んに見られるようになりました。何年か前まではずっと円安祈願をしていたはずなのに、何という変わりよう。急激な円安のきっかけは、言うまでもなく原油価格の急騰ですが、ここまで不安に煽られてしまうのは、経済力に対する自信喪失の為せる業なのでしょうか。

原油価格はほんの2年前、コロナショックで底が抜けて、先物がマイナスの値をつけたことさえありました。それが昨年は右肩上がりに回復し、今120ドルを超えるところまで来たわけです。予想もしなかった戦争という事態に、原油市場は価格上昇という反応をして見せましたが、先は常にも増して、予想し難くなっています。足元で価格が上がるのは分からないではありませんが、大きなトレンドであるはずの化石燃料離れは、いったいどうなったのでしょうね。

為替レートを動かす要因はたくさんありまして、私ごときが簡単に説明できるようなものではありませんが、「為替は理解が難しい」という声にお応えして、円のレートがどんなふうに動くのか、私なりに整理してみようと思います。

まずごく短期的には金利でしょう。特に短期金利。アメリカで金利が引き上げられました、日本では上がりませんでした、となれば、新たに資金を預ける人はアメリカで預けようと思うでしょう。より高い利子が稼げますから。だから金利の高い通貨が強くなります。

次に考えるのは、ビジネスへの投資。投資先のある所にお金は流れます。日本は基本的にお金はあるけれど投資先が十分無い国なので、景気がよくなる時には、日本のお金が外へ出稼ぎに行きます。だから円安気味になります。景気が悪くなってくると、お金が海外の出稼ぎから帰ってきて円になりますので、その分円が買われることになります。

長期的には内外の物価が為替レートを決定します。物価の上昇率は、国によって様々ですが、マーケットはグローバルですから、均衡を保とうとする力が働くのです。「ビッグマック指数」なるものがあるのをご存知でしょうか。マクドナルドのハンバーガーですね。どこの国でもほぼ同じ品質と思われるビッグマックが同じ価格であるためには、為替がいくらであるべきか、という指数です。

ここでシミュレーションはしませんが、ちょっと考えてみると、物価が安い国の通貨は、内外の均衡を保つためには高くならなくちゃいけない、ということが分かります。同じものを買うならば安いところで買いたい、と誰でも思いますよね。ですから物価が安い国にお金が流れようとして、その国の通貨が高くなる、という市場の力です。

日本は世界でも最も物価上昇率の低い国の一つですから、当然円には高くなれ、という圧力がかかります。世界の中の日本の経済的地位は、長年にわたって落ち続けているのに、円が何となく強さを保ってきた背景には、この物価を均衡させようという力学があるのです。この物価を均衡させる為替レートを「購買力平価」と呼んだりします。

総合的な国力や国に対する信用は、もちろん為替レートに影響します。政治力のような漠然たる要素もありますが、やはり重要なのは経済力でしょう。その信用に直接的にかかわるのは、お金を持っているかどうかということ。その点は個人に対する信用と同じですね。そんなに働いて稼いでいなくても、たくさん蓄えのあるお金持ちであれば、信用は得られます。日本は世界の中ではそんな感じの国だと思います。

いつまでもお金持ちで居られれば、何も心配はありません。これまでの日本は、パッとしないながらも、お金が減る心配はあまりしなくていいと思われていたわけです。このところの円安が不安を煽っているとすれば、その辺がいよいよ心配になり出した、ということでしょうか。お金持ちだった人がお金に困り出したら、それはちょっと悲惨ですよね。

これまでの為替レートは、物価を均衡させる「購買力平価」よりも円高であることが多かったのです。だから世の中の円安祈願は、せめて物価を均衡させる程度には円安になってほしい、ということだったと思います。ところが、今の為替レートは物価を均衡させるレートよりも円安な領域に突っ込んでいるように見えます。

このことは、「日本の経済」に付いていた値段が、長い間割高だったのに、ここへきて割安になり始めた、ということを意味します。時々、日本の為替レートが30年前と同じになった、という表現を見ると思いますが、それは「30年前からずっと割高だったのに、30年以上前と同じように割安になってきた」ということです。だから心配になるのは無理も無いと思います。

ただそれを、「生活水準が30年前に戻った」とか「10年前、20年前より貧しくなっている」と言うのはちょっと違います。例えば1990年代の円高時、円は海外で多くのものを買えましたが、国内では今ほど多くのものを買えなかったわけです。今どきの百円ショップの品ぞろえには驚くばかりです。ここ20年や30年の間、GDPの成長力は落ちましたが、国内にたまったお金で財政赤字を膨らませながら、公共のインフラも、かなり立派になったと思います。生活の豊かさと、為替レートは直結しないのです。

問題は将来です。日本はきっと将来貧しくなる、という見通しが、信用の低下を招くのですから。

できるだけ簡潔に、と思っても、結構長くなりました。本当はもっとお話すべきことがあるとは思いますが、今日はこの辺で。

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