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伝えたいことはたくさんあるけれど… [投資スタイル]

「株式の基礎」というオンラインセミナーをやらせてもらっているのですが、先日受講者から寄せられたアンケートの回答の中に、嬉しいメッセージがありました。

そこには、「株式を買う時、何を買っているのか」という話が特に面白かった、と書かれていました。それまではチャートなど見て何となく安いから、と言って株式を買っていたけれど、「何を買っているのか」が分かって腰がすわったような気がする、とも書いてくれていました。

私が一番伝えたいと思っているのは、そういうことなんですね。長らく株式市場と付き合ってきて、株式とか株式市場とか、世の中に理解されてないよね、といつも感じてきました。貯蓄から投資へ、ということはこれまでも、時折思い出したように繰り返し唱えられてきましたし、ここ数年は「iDeco」や「つみたてNISA」といったスキームができて、老後のために株式にも投資を、という呼びかけがなされています。

そんな中でも、株式投資の意味について正面から向き合った解説がなされている例はほとんどないのではないかと思うのです。頑張って「株式投資は会社を応援すること」とか、「日本株投資は日本経済を応援すること」といったところでしょうか。

どうなんでしょう。一般的にその説明で、多くの人が納得して株式投資する気持ちになるのでしょうか。株式に投資するということは、誰も何も保証してくれません。もちろん、だから収益期待も高くなるのですが、それはとりあえず置いておいて、誰のせいにもできない自己責任の世界ですから、自分が何を買っているのか、ぐらいは十分納得して買うのが当然です。そう思うと、巷でなされている説明が十分とは、どうも私には思えないのです。

説明しても分からないだろうから説明しないというよりは、説明する側の人々も、今一つよく分かっていないのかもしれません。株式投資をしている人の層がそもそも薄いという現実があって、その中でも教育に携わる人たちというのは、さらに株式投資から縁遠そうです。

「株式とはなにか」「株式会社とはどういうシステムか」といったことは、将来は学校教育でしっかり教えるようになってくれるといいとは思いますが、お金の話、ましてや株の話など教育に悪い、というのは一種の伝統的感性です。そう簡単には変わらないのでしょう。少なくとも 既に大人になっている人たちには何らかの方法で、株式には投資すべき価値があるということを、繰り返し伝えていきたいと思うわけです。

ご参考 → 「株式投資の基本」 オンライン講座
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「労務」に始まり「労務」に終わった三菱電機 [株主総会]

先週の金曜日のいわゆる集中日は、ライブ配信で三菱電機の総会に参加しました。

事業報告も中期計画も立派にまとまっていて、特に申し上げることはありません。それよりこの総会、労務問題に始まって労務問題に終わった印象です。

中期計画の中でも、ESGへの取り組みの第一番は「従業員エンゲージメント」。会社人事の「エンゲージメント」というのは、最近の流行りなのでしょうか。耳慣れないのでピンときませんが、ここではそのために柔軟で効率的な働き方を取り入れて、いきいきとして働ける職場環境を実現する、と言っています。「情報セキュリティ―」という項目もありましたが、防衛関係の情報漏洩事件を受けての対応なのでしょう。当然ですね。

事前質問も労務問題から始まりました。これが争点となるであろうことは十分に予想されていたと思われます。2年前に私が出席した株主総会の時点でも、労務関係の質問が相次いだと記録があります。(→2018年の株主総会)2019年にも社員の自殺事件が1件。この時は教育係が書類送検されたんだそうです。

質問者の中には労務問題の活動家のような人もいて、事業所の門前でチラシを撒くなどの活動をしているのだそうです。彼女が言うには、社員が抑圧されているのを感じる、完全に無視するようにと会社から指示が出ているのだろう、と。方々で活動しているその道のプロ(?)らしく、別の企業ではもっと対応が良い、と他社比較までして見せました。

一番最後の質問も労務問題でした。元社員だという質問者は、ブラック企業大賞を受賞するなど元社員として情けない、と嘆き節。社内にはびこる情報隠蔽体質を正せ、それがパワハラ体質の原因だ、と一刀両断です。ついでに、防衛庁の漏洩事件も隠そうとしたではないか、と。社内から見ていた株主ともなると、おっしゃることが真に迫ってますね。

こうした質問に対する答え、要はパワハラ防止策として何をやっているかということですが、列挙しますと、
 社内の風土改革
 ハラスメント防止教育の実施
 個々の社員の心の変化を把握するため、毎月一回アンケートの実施
 外部カウンセラーの導入

そこで社長がひと言、現場を訪ねて若手社員の話を聞いている、と話す場面もありましたが、次の質問者に、社長が訪問して本音が聞けるとでも思ってるのか、と言われてしまいました。おっしゃる通りです。認識が甘いと、自ら暴露してしまったかも。

私としては、内部通報制度がこの中に挙がっていないのが不満です。そういう制度、無いのかしらと思っていたら、2年前の総会レポートでは、「パワハラについては内部通報制度があります」というくだりがありますね。あっても機能してないんでしょうね。どういう通報制度なのか知りませんが、人事部に通報するんじゃだめです。外部の法律の専門家とか…とにかく社内と結託しない「外部」が必要だと思うんですよね。

2年前はそれほど深刻にとらえていませんでしたが、事ここに及んで、この社内のパワハラ問題は喫緊の課題に育ってしまったようです。パワハラ防止、ではなく、パワハラ体質の払拭、というのが正しいでしょう。事件が繰り返されたと言うだけではなく、社会の労務環境に対する目が急速に厳しくなっています。企業のブランド価値が思った以上に棄損するリスクがあります。

労務問題の一部ではありますが、女性の登用についての質問もいくつもありました。現状は従業員の9.7%、管理職中の3.9%が女性だそうです。いわゆる大企業は、今どのくらいが平均なのでしょうね? 

平均がどうかはともかく、社内のパワハラ体質も隠蔽体質も、職場における多様性の欠如と無関係ではない、と言えるのではないでしょうか。女性や外国人、転職組の多い職場は隠蔽体質になりにくいと思いますよ。阿吽の呼吸も通じませんから。だからと言って、急に女性を増やしたり中途採用を増やしたりするのは現実的ではないかもしれませんが、そういう体質の会社なのだとすれば、普通以上のことをやらなければいけない、ということです。

例えば、多様性の向上のために目に見えるほど女性の比率を挙げようと思えば、「女性でも優秀だから採用する」のでは足りなくて、「とにかく新規採用の技術者は最低3割女性にする」というような発想が必要だと思うのです。

難しいのは、多分経営幹部の皆さんは、従来の体質が居心地よいから偉くなってる方々だということ。多様性を強化するには、これまで居心地のよかった種類の人々に犠牲を強いるということです。そんな風に考えると、それなりに覚悟を持って臨まなければならない問題と言えそうです。昔から割と好きな会社なので、真剣に向き合ってほしいですね。

→ 2018年の株主総会
→ 三菱電機の思い出話
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「ガバナンス」について 頭の体操 ~ 日産の株主総会 [株主総会]

株主総会のネタが5社分も溜まってしまいました。時系列に逆らって、後入れ先出しでご報告します。

まずは月曜日にライブ配信で参加した日産。誰もが知る「事件」もあって、昨年は当初の予想を遥かに超えて、業績も株価も低迷したわけです。会社からの事業報告は、掻いつまんで言えば、むやみな成長戦略を反省し、戦線を縮小して足もとを固めます、ということ。生産拠点を減らす。投入モデル数を絞る。マーケットも日本・中国と北米以外はアライアンスに頼る。経費削減、選択と集中

会場の株主からの質問は従来通り整理券方式。当然ながら厳しい質問が並びました。主なものを、出てきた順に列挙してみましょう。

1. 社外取締役のうち執行役を兼ねていない9名の報酬削減が無いのは何故なのか。昨年から在任の取締役は責任があるのではないか。報酬削減すべきではないか。管理職も報酬削減の対象ではないか。

2. ゴーン氏の件で何か発言することはないのか。

3. 社内の取締役はルノー3名に対し日産2名。フランスは車の技術で劣っていると思うが、このバランスで大丈夫なのか。

4. 日産の将来に大変な危機を感じる。大改革が必要と考えるが、そのためには強力なリーダーシップが必要ではないか。一体だれが本当の日産のリーダーなのか。こんな体制では危機を乗り切れない。取締役の筆頭が社外とは一体どういうことか。内田社長の意思は経営に通じているのか。

5. 不透明だから通期予想を出せないというが、トヨタは具体的な数字を発表している。サプライヤーを安心させるためには必要ではないか。

6. 電動化で打開策というが、他社も電動化には注力している。それだけで日産が戦えるとは思えない。トヨタのスマートシティ構想や、ホンダのロボットまたは航空機に負けない将来の姿を描いてほしい

7. 技術者がいくら優れていても力を発揮できないのは、知財の面が弱いのではないか。

8. 「信頼」を失ったことが最大の問題ではないか。ゴーン氏の不正と決めつけているが、日産は彼に弁明の機会も与えず、検察と組んで留置場に放り込むような姑息なやり方をする会社、と思っている人も多い。この事態をどう回復するのか。

9. 日産は「売れる車」を作っていないと思うが、その認識はあるのか。電気自動車も、先行したはずなのに売れていないではないか。

整理券方式ですと、事前に時間をかけて準備しているはずなので、もちろんすべての質問が的を射ているとは言いませんが、耳を傾けるに値する質問が多いように思います。

質問の焦点は、業績に関することももちろんですが、日産の場合はガバナンスに絡む質問が特に興味深いのではないでしょうか。あのような事件があって、委員会制度が有効に機能するのか、関心の集まるところです。

1の質問に対する報酬委員長の回答は、「執行と監督の分離」ということです。執行役を兼ねない取締役は監督が任務であって業務の執行に責任はない、だから報酬も減らない、というわけです。それが教科書の答えなのでしょう。でも質問の後半にも頷ける点はあります。

監督した結果「よし」とした経営陣が、あのような事件の発生を許し、その結果業績が悪化しているんですよね?でも監督者に責任はないという。では監督とは何をすることなのだろうかという疑問が湧くのは、ごく自然な成り行きであるように、私には思えます。私もよく分かりません。はっきり言ってしまえば、ガバナンスの教科書は正しいのか、という疑問です。監督と執行は、本当に分離できるのかという疑問です。

4の質問も、ガバナンス制度に対する疑問といえるかもしれません。もしかすると、ガバナンスというものが、宿命的に負っている矛盾のようにも思えます。

日産の招集通知を見ると、取締役は明らかに社外が中心となっていることが分かります。取締役会の議長をはじめ、指名・報酬・監査の各委員長は当然社外、数のバランスも、社外7名に対し社内は5名です。こういうのがガバナンス優等生なんですね。そして取締役の序列の後ろから3番目に載っている社長が、業務執行の責任を負っている。でも本当にそれでリーダーシップ、発揮できるんですか?というのが4の質問なわけです。
 
この質問者は多分、質問の常連なのでしょう。元社員かもしれません。初めに、質問は一人1問2分以内で云々、と注意事項の説明があったにもかかわらず、完全無視。計っていませんでしたけど、15分くらいは演説なさってたんじゃないでしょうか。

「ガバナンス」と「リーダーシップ」というのは、そもそも相容れない部分があります。経営者の独裁を防ぎ、暴走を止めるのがガバナンスの役割のひとつですから、当然と言えば当然です。両者のバランスがうまく取れていることが理想なのでしょうけれど、日産のように過去に深刻な問題が発生すると、そのバランスがガバナンスのほうに傾いてしまうのではないか。しかも強力なリーダーシップが何よりも必要な時に。一旦バランスが崩れると悪循環に入ってしまうのではないか…。4の質問者の心配は尤もなことです。

それから8の質問も、相当深刻ですね。ゴーン氏の件についてはスキャンダラスな取り扱いもされているでしょうし、実際様々な見方があるのでしょうが、「事件」によって失われた日産ブランドの価値の大きさを改めて認識させられます。

ここで話題に取り上げた質問は、会社の回答で質問者が納得できるようなものではないかもしれません。日産という会社の問題であるだけでなく、もう少し幅広く、会社のガバナンスということについて考えさせられます。しかし、これがもしもバーチャル・オンリーの総会で、質問を会社が選択できるとしたら、有意義なQ&Aにはならなかったかもしれません。事前チェックされない質問は、やはり必要でしょうね。

余談ですが、7の「知財」の質問の中で質問者が、見習うべき企業としてデンソーと三菱電機を挙げていらっしゃいました。三菱電機は知財に注力しているという話を、2年前に投稿した記事の中で触れているので、知っている人は知っている、とちょっと嬉しくなりました。ちなみに次回の投稿は、「三菱電機の総会」の予定です。


→ 2019年 臨時総会
→ ゴーン氏 逮捕劇
→ 2018年 株主総会
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