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ESGと株式市場 ~ 私見ですが ~ [市場と経済]

ESG投資」はもう珍しくもなんともない、当たり前の投資スタイルになりつつあります。しかし正直言ってやはり違和感がある、という人は結構いらっしゃるのではないでしょうか。

ESGの考え方は昨日今日生まれてきた新しいものではなくて、遡れば1960年代から見られます。アメリカで、ベトナム戦争、公害、自動車事故の急増、人種差別、といった社会問題に対し、企業が責任をとるべきだという主張がされるようになりました。利潤を上げることが企業の存在意義だという考え方と、この社会的責任のあり方のバランスが、時代によって移り変わっているのだと思います。

株式市場がこの問題を意識するようになったのは、私の印象では確か1990年代の終わりごろです。運用担当者として初めてCSR(Corporate Social Responsibility、当時はこの用語でした)説明会の案内をもらったのがその頃で、三菱電機でした。珍しかったのではっきり覚えています。それが日本で最初かどうかは分かりませんが、そうでなくともそれに近いことは間違いないでしょう。

十数年前は、「企業が継続的に活動していくためには、良い地球環境が保たれ、社会の平和や公正が実現していることが必要なのだから、それらに貢献している企業に投資すれば、長期的には市場の平均よりも 良いパフォーマンスが得られるはずである」と思われていました。市場に任せておけばいい、つまり市場に対する絶大な信頼がまだあったのです。

しかしその後も、それを示す十分な実証データは得られなかった、と私は理解しています。そうこうするうち、市場というシステムそのものに対する信頼も薄れ始めました。社会格差の拡大が許容し難いと感じられるようになり、それが市場や、更には資本主義に対する不信感へとつながっていったのです。

私は元々、ESGを株価のパフォーマンスに結びつけることに違和感を持っていました。企業には、限りある資源を有効に用い、雇用を創出し、社会を豊かにするという、それはそれで重要な社会的責任があります。株式市場が反映できるのはその面だけではないかと考えていました。環境や社会正義に対する社会的責任は、株式市場とは別の場で評価されるしかないのではないか、という気がしていたのです。

しかし世界の投資家コミュニティーは、能動的に株式市場に働きかけるという選択をしました。それが今の「ESG投資」の流れであると、私は理解しています。市場に任せておいては解決できないので、株価が企業の社会貢献を反映するように、株式市場を変えてしまおう、ということです。

それはまた、企業という存在が大きくなりすぎて、「規制」のような方策では制御しきれなくなったということなのかもしれません。規制によって、環境や社会正義を十分に守ることが難しいのだから、企業に自ら守ってもらうしか方法はありません。そのためには投資家がそのように行動することが必要です。投資家が、社会的責任を考慮した投資をすることで、株価に積極的に影響を与えよう、というわけです。

そうした潮流は、予想以上に急速に、世の中に浸透してきているように見えます。ごく最近になって、ESGに熱心な企業の株価パフォーマンスが平均よりも良い、というような記事を見かけることがあります。それが正しいとすれば、それは市場本来の性質というよりも、そうなるように市場を変えた、ということだと思います。

投資判断をする時にESGを意識する必要がある、というのはそういうわけです。ですから従来の「市場」をイメージしていると、違和感を覚えるのは無理もないことなのです。それでも、機関投資家の議論しているESGはピンと来ない、やたらと売り出されるESG投信は何だか胡散臭い、と感じるならば、個人には個人のESG投資がある、と私は思っています。長くなりますので、その話はまた別の機会に。

タグ:ESG CSR
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決算発表のシーズン到来 [市場と経済]

3月期決算の企業業績の発表が始まっています。すでに終わった期については減収減益ですが、ここ数か月で、減益幅はそれほど大きくなさそうだ、ということで良い方に修正されてきています。需要の回復が当初の想定より早く起きているからだそうです。

今さら過去の業績をあまり気にする必要はないんですが、減益幅はその予想よりさらに小さいだろうという気がします。各企業の経費の削減幅は、きっと予想を超えて大きいのではないかと思うので。移動が大幅に制限され、飲食を伴う会合やプロモーション活動もほとんどがキャンセルとなりました。当然それにかかわる業界の売り上げは激減したことになりますが、その分はほぼすべて、発注側の節約になっているわけです。こんな、普段は経験しないような経費の削減、十分に予想するアナリストは多くないだろうな、と。

こうして節約された諸経費が、コロナ後すべて元に戻るのかと考えると、さてどうでしょうか。これが個人の旅行需要などであれば、溜まっていた需要が一気に戻ると予想するのが自然です。でも企業はそういうことにはならないように思います。経費削減でこんなに効果が上がるのか、と思った経営者は、少なくないのではないでしょうか。そして改めて洗い出してみると、単に惰性で支出していたような経費も、結構あるのではないでしょうか。

これを機に販管費を見直して、体質が強くなる企業もきっとたくさんあると思います。災い転じて福となす、という言い方もあります。通常の経済活動がいつ戻って来るのか、まだはっきりとは見えませんが、新年度の業績は大幅な増益予想ということになっています。需要の回復だけではなく、利益率の改善も、その中には含まれているのでしょうね。楽しみにしておきましょう。

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