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インフレで伸びる消費もある・進む改革もある [市場と経済]

前回の投稿では、株価についてはあまり心配していない、なんたってインフレ経済が始まったのだから、ということを書きました。物価は上昇基調にあるほうが、企業経営はしやすいという話です。

でもきっとまだ、インフレと聞くとネガティブな印象を持つ人はたくさん居るでしょう。経済関係のニュースでも、物価上昇で消費は減るだろうから、という解説をよく耳にします。同じだけの予算で買い物する場合、値段が高いほうが買える量は、当然少なくなります。ですから消費者が予算を増やさないならば、実質的には経済は成長できません。だから消費が減る、という表現になるのでしょう。

ここで敢えて疑問をさしはさみましょう。消費者は皆、上記のケースの前提条件である「同じだけの予算」で買い物をするでしょうか。メディアに出てくる話はすべからく、給料が上がらないんだから余分に出費なんかできない、というストーリーに聞こえます。でも本当にそうでしょうか。

過去1~2年の間に、消費者のマインドはかなりの程度、デフレ対応からインフレ対応にシフトしているのではないかと私は感じています。このことは大きな変化です。消費行動に直接見えやすい形で現れるものではないかもしれませんが、意識の底で、何かが変わっているはずです。

デフレの下では、たとえば店頭で商品を見て「高いな」と思ったらまずは買いません。他にもっと安い店があるだろうし、待っていれば下がることが期待できるからです。ところがインフレの下では、「高いな」と思っても、必ずしも買わないことが合理的とは言えなくなってきます。他の店ではもっと高いかもしれない、待っているともっと高くなるかもしれない、と感じるからです。これがインフレマインドということでしょう。

これまで「高い」と思って買わなかった人は、お金が足りなくて買わなかった人ばかりではありません。待っているほうが合理的だったからです。言い方を変えると「今買うと損」と感じながら買い物をしていたのです。物価が上昇基調になって消費量を減らす人は、マインドが変わって予算を増やしたくても増やせない人です。しかし、デフレ下で緊縮していたけれど、インフレが始まったおかげで買い物の予算が増える人は少なくない、と私は思います。

インフレ基調になって、名目的に経済が成長するようになると、色々な意味の構造改革もしやすくなると思います。改革するということは、多くの場合「資源の配分の変える」という行動を伴います。金額の増えないデフレ下で配分を変更しようと思うと、誰かの持ち分を削ってほかに持っていくことになります。それはとても難しい。しかし、名目値であっても金額が増えるのであれば、増やすべきところには、成長によって増えた分を配分すればよいだけです。

10年前のアベノミクスでは、デフレが止まり、株価が上がり始めるところまでは良かったものの、規制改革による経済成長とまでは行きませんでした。当時どんな改革が期待されていたのかさえも忘れてしまいましたが、今後は出来れば政府の旗振りなどに頼らなくても改革が進むよう期待したいものです。

企業の経営効率の低さに拘る弱気の虫も、時々目にします。ROEや売上利益率の低い企業は、確かに数多く存在します。デフレとは直接関連しないかもしれませんが、低金利と企業の効率の低さは無関係ではありません。

金利が低いということは、低い利益率でも生きていけるということにほかなりません。金融政策から経済が受けてきたメッセージは、「利益率なんか低くてもいいんだよ、会社が潰れないこと、雇用が保たれることが大事なんだ」というわけですから、日本企業の平均的な利益率が低いのは、ある意味合理的とも言えます。金利というものは経済全体でつながっているものですから、超低金利の下で、企業の利益率だけ高くしろと言っても、限界があるのです。

超低金利を日本は長く続け過ぎた、というのはかねてからの私の持論ですが、漸くそれも終わりに近づいている、と期待しています。

今年もブログをお読みいただき、ありがとうございました。
新年も右肩上がりの良い年になりますように。

龍の絵は、原田直次郎「騎龍観音図」から。

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物価は上がっているんだから… [市場と経済]

日本の株式市場は何となく強いようです。日本の経済指標がそんなに強いわけでもないし、世界景気の先行きも、必ずしも明るいわけではないのでしょうが、それでも株価がそれほど下がる気がしないというのが正直な感触です。その根底にあるのは、物価上昇。インフレ経済の到来です。

消費者物価指数を見ると、2021年の秋ごろから前月比プラスが定着、前年同月比で見ると、2022年の8月以降は3%を1度も下回っていません。安定的な上昇率がどこに収まるのか分かりませんが、物価の上昇基調は続くと思っています。一般的な報道を見ていると、原燃料の物価が上昇しているのに賃金が上がらない、というトーンばかり感じられますが、最近は人件費と思われる物価上昇も目に付くようになってはいませんか?

いわゆる正規労働の賃金は上がっていないのかもしれませんが、パート・アルバイトの時給はここ10年ぐらい、なんだかんだ言って上がり続けています。事務系の職種などはむしろ下がり気味ですが、元来水準の低かった外食や販売員、物流や清掃といったところが強いようです。正規労働の賃金は、雇用のシステムや年齢構成など、経済以外の要因も色々とありそうですが、たとえば初任給の統計を見ると、上昇傾向は続いています。今国を挙げて熱心に取り組んでいる働き方改革は、人手不足を深刻化させる要因ですから、今後も簡単に労働の需給が緩むことはないように思います。

為替レートも物価に効いて来ます。為替の予想をするつもりはありませんが、居心地のいい水準が、110円を中心とした辺りから、140円なのか150円なのか、明らかに居場所を変えた感があります。

私は購買力平価の図を時々眺めるんですが、2022年は超長期的にフェーズが一変した記念すべき年のように見えます。1985年に円レートは、購買力平価を大きく円高方向に離れ、日本経済に大きなインパクトを与えました。そしてそのまま日本は35年あまり、円は高い高いと言いながら、経済を運営してきました。円は高い水準を保ち、日本の物価に下落圧力を与え続けたのだと思います。

私のように株式の価値を拠り所に投資をするという発想ですと、円レートだって高すぎるならば、それを是正する方向に動いても良さそうなものですが、為替市場というのはそういうものでもないんでしょうね。物価のほうが35年かけて為替レートの指し示す水準に近付いてきた、というふうに見えます。そしてこれからは、円安が物価を引き上げる方向に導いて行くよ、とでも言いたげです。

デフレ時代の30年は、経済活動について言えば、改めて大変だったな、と思います。単純化した議論ですが、普通にビジネスしていると、売上は減るわけです。売っているものの価格が下がるのがデフレですから、同じ売り上げを得るのにより多く売らなくてはならないことになります。何とか打開しようと海外へ出れば出たで、円高ですから、投資した資産価値は減り、売上には下落プレッシャーがかかります。その一方、何もしないで円の現金を抱えていれば、財産は減らないわけです。

よく「企業は現金を抱えこんでけしからん」という政治家が居たり、「日本の個人は現預金ばかりで金融リテラシーが低い」などという金融教育家が居たりしますが、どちらも全く合理的な金融行動なのです。投資して頑張ってもデフレ下では報われない、というのが合理的な答えなのです。

物価が上がるということは、金額が増えるということです。「実質」も大事でしょうが、私たちは多くのことを、お金の額で測っています。そしてそれは「名目値」なのです。実際の経済は多くの場合、名目値で認識されているのです。企業の売上や利益も、名目値です。売上が5%伸びている時に、「インフレ率が3%だから実質売上は+2%だね。」なんて言う人はいないのです。もちろん株価も名目値です。だから株式市場も大丈夫。なんたって物価は上がっているんだから。

インフレ経済の到来は、歓迎すべきことです。経済経済というならば、物価高を悪く言うような言動は避けるべきです。物価高で苦しむ個人を援けることは、福祉政策ではあっても、経済政策などと呼ばないでほしいものです。正規雇用の賃金が上がっていないとすれば、それはまだ物価上昇が足りないということに過ぎません。常用労働の指標は、景気動向指数でも「遅行系列」に含まれます。経済に遅れて動く、という意味です。

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