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雇用逼迫するアメリカ [市場と経済]

アメリカでは、雇用がひっ迫して賃金の上昇圧力も強い、と報道されています。労働者の賃金水準に対する態度も強気なようです。そうか、アメリカはそんなに景気が良いのか、と思うのは自然なリアクションでしょう。でも雇用の逼迫というのは、仕事が増えるだけではなく、労働者が減ることによっても生じます。賃金が安いならば働かなくてもいいや、と思う人が増えれば、雇用は逼迫し、賃金の上昇圧力が高まります。そこには、長期にわたって続く米国株の上昇も、一役買っているのではないでしょうか。

米国では老後の蓄えに株式や株式投信を買うということが、日本よりは遥かに一般的に行われています。そして米国株は、ドットコムバブルの崩壊やリーマンショックを乗り越えて、それ以降は大きな下落局面もなく、右肩上がりとなっています。裏付けとなる統計などを見たわけではありませんが、たとえば30代でいくばくかのお金が貯まっていれば、株式を買うのはごく普通のことでしょう。

10年前に個人でMicrosoftやApple、Amazonなどの株式を保有していた米国人がどのくらい居たか知りませんが、そのまま持ち続けていると、ざっくりMicrosoftなら10倍、Appleで12倍、Amazonならば20倍弱です。どれか1銘柄以上100万円分持っていたら、今は1~2千万円になっているということになります。10年前既にこれらは、プロの投資家しかしらないようなものでは決してなく、誰でも知っている銘柄だったはずです。保有している個人はどこにでもいたと思います。

そんなにキラキラした成長株を持っていなくとも、何も考えずにインデックス投信を保有していた個人投資家だって、資産は3.5倍になっているのです。強気にもなるわけです。また雇用は日本と違って流動的なのが当たり前ですから、働きたくなったら探せばいいと、誰もが思っているのでしょう。そう考えると、雇用がひっ迫して賃金が上昇している状況がよく理解できます。

日本から見ていると、あれもこれも高嶺の花に見えますが、日本の株式指標である東証株価指数を同じように10年前と比較すると、約2.7倍になっています。日経平均ならば3.3倍です。アメリカの指数と大差ありません。本当の問題は、アメリカ株が上昇しているのに日本株がパッとしなかったことではなく、株式投資している個人が少なかったことではないでしょうか。

日本では損が出たときしか騒ぎになりませんが、本当はもっと豊かになれた人がたくさんいるんだ、といって騒ぐ人が居ても良さそうなものです。自分が上手くやって豊かになっている人は騒ぐ必要が無いし、チャンスをすっかり逸してしまった人は、未だに気づいていないということなのでしょうか。もし気付いていても、自分がバカでした、という話なんてきっとする気にもならないし。

さて、先日の新聞報道では、昨年は個人が日本株を10年ぶりに買い越したとありました。しかも若年層が資産形成で買っている、と。気を取り直して、これからの世代に期待しましょう。私は、株式抜きの資産形成はあり得ない、と思っています。

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新年の雑感 ~「スワロウテイル」~ [市場と経済]

スワロウテイル」という映画がありまして、1996年の公開という、そこそこ古い映画ですが、見たのは昨年の巣ごもり生活中。タイトルと映画のポスターの図柄に見覚えがありました。

舞台は近未来の東京のようにも見えるYen Townと呼ばれる都会と、その荒れた郊外やスラム街。他所からやってきた中国人が大勢住んでいて、三上博史やCharaの演じる登場人物もそこに住む中国人という設定。ちゃんと中国語で演じています。特に面白い話とも思いませんし、公開当時に見ていたら何も感じなかったかもしれませんが、描かれている時代の景色、それが1996年に作られたということに、心を揺さぶられました。

東西の「壁」が崩れ、なし崩し的にグローバル化の進んだ時代。日本にもアジアを通じてその波が押し寄せていました。「アジアの純真」なんて言う歌も流行りましたが、今にして思うと、無秩序なイメージがグローバル化の勢いを上手く歌っていたと思います。「スワロウテイル」に漂う空気は、その無秩序さの一方で、熟しきって甘ったるい薫りを放ちながら朽ち始める日本経済を象徴するかのようです。

Yen Townというのも、なんという絶妙なネーミングでしょう。1995年の「¥」は最強でした。本当に世界中が買えそうな勢いで、私もふだん着る服の多くをカタログ通販でアメリカから買っていました。まとめ買いすれば郵送料を払っても安かったのです。生活実感だけではなく、購買力平価の図(下のグラフです)を見ても、円の強さははっきりと見てとれます。赤の「消費者物価」と紺色の「実勢相場」のギャップがそれを表します。あの時が歴史的に見ても「最強」だった、と分かるのは、それなりの月日が経ってからですが、市場の中に居る専門家より、外に居る映画人のほうが、真実が見えていたのかもしれません。

最近の円安で、円の購買力が50年前と同じになった、と書かれた記事を見かけました。それはこの図の右端で、赤の線と紺色の線が交わっているということを表します。円高に振れるたびに、この国では「大変だ、大変だ」と騒いできました。内外の物価が均衡するレートに対して高すぎたのであれば、そう言って騒ぐのも良いでしょう。それがやっと均衡するレベルまで是正されたわけです。(50年前が均衡点と見做されている、という議論についてはここではしませんので、他で探してください。)

実力以上に円が評価されてきた背景には、色々な要因があるでしょう。当初は経済成長力だったでしょうし、それが衰えた後も、日本は投資先や投資する人が居ないだけで、お金はある国ですからね。他国に比べれば社会も安定していますし、国民も一応勤勉です。長年かけて、そうしたプレミアムが縮んできたというわけです。

過大評価が是正されたという意味では、過度に悲観しなくてもいいと思いますが、このグラフを見ていると、高すぎた円が安くなって是正されたのではなく、物価のほうが下がって是正されているように見えます。心配なのはその辺りじゃないでしょうか。これまではデフレが止まらない背景に、円の慢性的な過大評価があったのかもしれません。今後はデフレ要因が一つ減るということになるならば有難いこと、紺色のラインに押し上げられる形で、赤のラインが上向くよう願いたいものです。

構造的に円安になっているとは、まだ思えません。世界的に景気の良い時は円安になるのが普通です。お金だけはあって投資機会の乏しい日本から、投資機会の多い海外へ円が出て行くからです。去年から今年にかけては、まさにそうなっているんじゃないでしょうか。個人の株式投資も然り、ですね。

今年もよろしくお願いします。

(図は「公益財団法人 国際通貨研究所」のホームページからお借りした「ドル円購買力平価と実勢相場」のグラフです。クリックすると大きく見られます。)

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