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デフレ下の企業経営はたいへん [市場と経済]

日本の株式市場は今、知る人ぞ知る「低PBR」市場です。純資産の額に比べて、株価が低いということです。純資産というのは「資本」と言い換えても、大きさの面ではほぼ変わりませんから、PBRが低いということは、価値を産むべき「資本」に対する評価が低いということです。

どうして評価が低いのかと言えば、利益を十分産まないからです。資本が十分利益を産まなければ、ROEは低くなります。ROEというのは資本の大きさに対して利益の大きさが何%か、という指標ですから、「資本があまり利益を産まない」と「ROEが低い」はほぼ同義語です。ですからROEが低い企業はPBRが低くなるのです。

日本企業が十分利益を上げられないこと、ROEが低いことについては、組織が古いとか、リスクをとらないとか、人材の使い方が悪いとか、要らぬ資産を持ちすぎだとか、多くの論者がありとあらゆる説を唱えていると思います。どれも何となく正しそうです。私は今日は、敢えて日本企業のために言い訳しようと思います。だって日本企業の経営環境は厳しいんだもん、というわけ。

日本企業には売り上げの大半を海外で上げるような世界企業ももちろんありますが、多くの企業はやはり、国内で製品を売っています。ですから、日本の経済状態から大きな影響を受けます。その日本経済が長年にわたってどう推移してきたか、諸外国と比べて最も特徴的なのは、持続的な「デフレ」でしょう。デフレ状態の経済では、製品の価格を上げることはなかなか難しいはずです。同じものを同じだけ売っていると、売上が全く伸びないということになります。

これがもしインフレ経済であればどうでしょうか。例えば世間の物価水準が毎年2%ずつ上昇していく状態であれば、製品の価格を年間2%程度上げても、消費者が受け入れてくれます。それが「インフレ経済」ということです。同じものを同じだけ売り上げても、売上の金額は2%増えるのです。この時、概ねコストも2%増えると考えられるので、利益も2%増えることになります。つまり、特段の努力をしなくても、インフレ率に見合った成長がもたらされる可能性が高いわけです。

年間で2%や3%程度でも、何十年も続けば無視できない違いになります。例えばアメリカと比較してみましょう。1992年から2022年の30年間に、日本の消費者物価は9%上がりました。同じ期間にアメリカでは108.5%の上昇、つまり2倍以上になっています。特に売り上げを伸ばす努力をすることなく得られる売り上げの差が、これだけあるのです。これを平均して年率の物価上昇率で比べると、日本が0.3%、アメリカが2.5%です。年率にすると2%ちょっとの差ですが、ちりも積もれば山となります。日本の会社は、こういう不利な状況で生きて来ているのです。

ROEが低いというのも、単なる努力不足以上のものがあるかもしれません。売上は物価水準の影響を受けますけれど、バランスシート上の資産も、影響を同じように受けているのでしょうか。時価評価される資産もいくらかはありますね。ただバランスシート上の純資産に物価上昇率が影響を及ぼすまでには、かなり時間差があるような気がします。ゆっくりとしか変わらない資本を分母に、インフレとともに伸びる利益が分子に、ということであれば、やはりインフレ経済下で経営するほうが、ROEを上げるのもいくらか楽なのではないでしょうか。

そんなわけで、これから日本も本格的にインフレの時代を迎えるとするならば、企業経営にとっても株式市場にとっても喜ばしいことのはずなのです。製品価格を上げられないとか、賃金を上げられないとか、言っている場合ではありません。企業はしっかりインフレ経済の恩恵を享受して、株式市場は低PBRマーケットの汚名を返上してください。

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