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「うまい話は無い」という当たり前のこと [市場と経済]

このところニュースを賑わせていた、銀座の宝石店強盗事件。どうやらこれ、最近多い「闇バイト」ということのようです。闇バイトというのは、実際募集しているのを見たことはないので想像の域を出ませんが、まさか初めから「強盗するお仕事です」と言って募っているわけではなく、簡単に稼げる割のいいバイトとして募集しているのでしょう。犯罪に手を染める若者たちは、初めからそのつもりだった人もいるのかもしれませんが、あるいは闇世界の網にかかってやらされているようにも見えます。「バイト」ならば、きっときっかけはお金が欲しい、要領よく稼ぎたい、というそれだけのことだったはずです。

それに続いて、中学校の先生が殺人容疑で逮捕されるという件もありました。気になったのは、借金を負っていて、そのきっかけがFX取引であったらしいと報道されていること。借金が犯罪のきっかけになるというのは珍しくありませんが、金融的素養の無い人たちの眼には、FX取引が普通の資産運用手段として映っているのかもしれないと思うと、無関心ではいられません。きっと、借金がすごい勢いで増えることもあると知らずに踏み込んでしまうのではないでしょうか。

アルバイトして稼ぎたいとか、資産運用で収入を少しでも増やしたいとか、それはごく当たり前のことです。それ自体、身を亡ぼすような考えでも無ければ犯罪につながる発想でもありません。しかしそこに欠けているのは、「うまい話は無い」という当たり前の知恵ではないでしょうか。

うまい話がないのは何故か。それはバイトで働くにしても、資産運用や投資にしても、みな経済の一部だからです。そしてその経済は自由主義経済で、競争原理・市場原理に則って動いています。時給がほかより大幅に高いアルバイトであれば、応募者が殺到して需給が崩れ、そのうち時給は下がるでしょう。突出して収益性の高い投資案件であれば、投資家が殺到して価格が上がり、収益性は下がることになります。それが自由経済のルールです。

それにもかかわらず高い収益性を保っている「うまい話」は、それに見合うコストが隠れているわけです。犯罪を伴う闇バイトであれば、それは逮捕されるコストです。闇バイトというのは、ある意味警察に捕まるのが仕事なのですね。ただそのコストは、悪運が強ければ負担しない場合もある。ですからコストとして表面化するまでは「リスク」として存在するコストです。

FXのような投機的な案件に伴うリスクについては、ここでは改めて触れる必要もありませんね。このブログを読んでくださっている方は、高いリターンには高いリスクが伴うことをよくご存じでしょう。「うまい話」と思ったら、何故そんな高いリターンが可能なのか、よく考えなければなりません。負っているリスクが何なのか、わからないうちは投資するべきではないのです。

このところ盛んな「金融教育」は、ふたを開けてみると、少なくとも現時点では「パーソナル・ファイナンス」というのでしょうか、人生の資金計画を呼びかけるという内容に限られているようです。子育てはお金がかかりますよ、自分で資産運用しなきゃ老後は苦しいですよ、という話で終わっている感があります。NISAやDCは登場しますが、どうも順序が違うんじゃないでしょうか。

金融教育の一丁目一番地は、常に「うまい話は無い」だと思います。学齢期の子どもたちには、それだけでいいくらいです。運用の話の前に、とにかく働いて稼げるようになることが大切だ、と教えてほしいものです。経済と金融市場がどう関わって動いているのか、最も基本的な金融商品である債券や株式とはどういうものなのか、そんなことも教えずに、資産運用をしなければ大変だ、などと煽るような教育は、むしろ有害ではないでしょうか。

闇バイトも問題ですが、「資産運用」の名のもとに投資詐欺の犠牲になる若者たちも後を絶たないそうです。最近は投資に関心を持つ若者が増えて結構なことだ、などと喜んでいる場合ではありません。怪しい「投資セミナー」に若者たちを次々と送り込んでいるのは、実は昨今の金融教育だった、なんて想像するだけでも恐ろしいじゃありませんか。



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takachan

まずは、日本の場合は公的年金があります。資産運用以前に公的年金の活用が必要でその為には社会保険や厚生年金のある事業所で働く必要があります。厚生年金は損だから投資との意見もありますが、先日、青学大・原晋監督が「AT1債」で大損のニュースもあります。それでも公的年金があるからそんなに心配はないのですが。

日本が大量保有「AT1債」が“紙切れ”になる日…青学大・原晋監督は数千万円の大損
https://news.yahoo.co.jp/articles/f32aad2d92fd73ec8d8a7855bd7ebfdd442aa907

社会人になっても、投資で失敗するケースが後を絶たない事も考えると私ははじめの一歩としては社会保障だと思います。
それでも足りないのならば、初めて金融資産運用になりますが、ブログで仰る通り、株式や債券の仕組みを知らずに資産運用は無理なのは承知しています。
「世の中には美味しい話などある筈はない」との基本的な事を理解しておく事は社会人の基本常識として教えておきたいですね。

FP協会曰く「金融資産運用も大事だがそれだけに偏ってはならない」と新米FPにきつく言う理由もこの辺りだと見ています。

青学大・原晋監督は「AT1債」は見た目の金利が高いから購入したのだと思いますがBISのバーゼルⅢ規制を知っていれば、結局は「世の中には美味しい話などある筈はない」との結論になりますね。
僕は金融資産運用に偏らないように気を付けています。
僕も最終的には公的年金で助けられる立場になるから、馬鹿にせずそう言う所から取り組んでいます。
by takachan (2023-05-17 15:50) 

かわもとゆきこ

コメントありがとうございます。
年金を含む社会保障は、投資や運用よりも優先すべき知識だろうと私も思います。
私自身は資産運用、特に株式投資に関する発信をしているのですが、まず株式が何なのか分かっていることが大前提です。
リスクの高い債券を知らずに買ってしまうのも、まともな普通の債券が何か知らないからではないでしょうか。

by かわもとゆきこ (2023-05-19 17:03) 

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