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為替は単純じゃない [市場と経済]

円安が急激に進んで、巷には不安を煽るような言説も出回っています。危機感を煽るのが一部のメディアのお仕事であると言えなくもないので仕方ありませんが、為替がどのように動いても、喜ぶ人と苦しむ人が出てきます。大きく動いたからと言って、極端に悲観したり楽観したりすることは避けたいものです。

為替レートを予測するということを、私は基本的にはやらないのですが、(もちろん当たらないからです。笑)長年為替の動きを眺めてきて、為替レートはそう単純なものではない、とは自信を持って言えます。日本が良いから円が買われるとか、悪いから売られるとか、そんな簡単な話ではありません。

日本という国は今も、基本的に”お金のある国”です。もちろん将来それが続く保証はありませんが、今でも、投資すべきお金の量に対して投資先が不足気味の状態です。お金に色がついているわけではありませんが、国境を越えて行き来するお金には、日本のお金も多いはずです。日本のお金がかなり為替を動かしているということになりますね。ですから投資に回すお金を持っている日本人、多くは法人だと思いますが、彼らがどのようにお金を動かすか、想像してみると良いと思います。

今お金が国外に出て行きがちなのは、国内より海外に魅力的な投資先があるからだということに異論はありません。ただこの状況は、10年前や20年前には今よりも顕著でした。成長期待の差に変化が無かったとしても、少なくとも当時は今よりはるかに円高でしたからね。では10年・20年前と今とは何が違うのか。多分それは投資家のとれるリスクの度合いではないでしょうか。

投資の決断は、投資先の魅力だけではできません。リスクの高い投資は、自分がそれを賄えて初めて、行動に移すことができるわけです。国境を越えての投資行動は、国内への投資に比べて、間違いなくハイリスクです。

まず、為替リスクを伴います。言うまでもないことですが、円は常に下がり続けるわけではありません。投資先が物理的に遠いので、何かあっても自分で確かめに行くことは簡単にはできません。外国ですから従うべき法律も異なります。情報の量も早さも、国内より劣ります。また情報を得ようとすれば、言語が違います。言葉が分からなければ、翻訳者に多くを依存することになります。

このようなリスクを負えるということは、自身の経済状況に余裕があるということに他なりません。自分の足元が危うければ、外国に投資している場合ではないでしょう。そう考えれば、過去、日本が苦境に喘いでいる中で、円が高値を付けたということにも合点がいくのではありませんか。

円が実質的に一番高かったのはいつだったでしょう。表面的には2011年に75円台まで円高が進んでいますが、物価水準を加味した円と言う意味では、最初に80円を割れた1995年です。このころは何を買っても、アメリカのものは本当に安く見えました。

その頃の日本はバブル崩壊が進み、金融機関の抱える病巣が表面化しつつありました。この時期に、日本が素晴らしいと言って円を買う投資家はいなかったと思います。金融システムに綻びが現れ始めた日本の通貨が、どうしてあんなに高くなったのか。もちろん答えは推論でしかありませんが、余裕のなくなった企業・法人は、国内の綻びを埋めるために、資金が必要だったのではないでしょうか。また、財務的に自分の足元が危うくなれば、それまでのようにリスクをとることができませんから、外貨は円にして手元に置こうと考えるでしょう。

そんなふうに考えると円安は、資金の出し手である日本人が、リスクをとる余裕を得た現象、と言うこともできます。先述の通り、為替レートは単純に決まるものではありません。弱い円=弱い日本、という結論は、あまりにも感覚的で単純な発想です。多面的に考えるようにしたいものです。




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長期投資が安定してるって? [投資スタイル]

去年から、「金融教育」というものが猛然と世の中に出回るようになりまして、私としても、関係するサイトを見たり、実際のセミナーを視聴してみたりしました。ファイナンシャル・プラニング中心の内容となっていて、私が細々と実践してきたものとは性格が違いますが、これはこれで必要な内容かと思います。資産形成については、その必要性を力説、そして結論は積み立てNISA、という感じでしょうか。金融教育を担うのが主にFPの皆さんでしょうから、自然な流れといいますか、現実的な教育プランです。

一方このブログで話題にしている、経済、金融市場、投資についてはあまり語られません。経済や投資についてはともかく、金融市場については、もう少し盛り込んでほしいというのが正直なところです。金融教育の目的の一つは、正しい判断力を身に着けることですし、そのためにはまず、金融商品の基礎でもある、金利・債券・株式について理解することが必要です。

それはさておき、とても気になったこと、それは「長期投資」についての説明です。結論は長期投資の推奨、それについてはもちろん異論はありません。ただ、どの説明を見ても、長期で保有するほうが「安定する」という書き方をしているのです。これは正しいのだろうか、という疑問です。

「安定する」という表現は、何を意味するのでしょう。少なくとも字面からは、リスクが低いという印象を受けるんじゃないでしょうか。「安定」かどうかはともかく、「リスクが低い」は間違いです。運用する期間は長いほどリスクは高い。これは常識です。そうでなければ、短期金利が低くて長期金利が高いことの説明が付きません。長期で貸し付ければ、短期の場合に比べ、返してもらうまでの間に「何が起こるか分からない」度合いが大きいので、リスクが高いのです。

個別の株価にしても、1日や2日で半分になるにはよほどの事件が必要ですが、10年で株価が半分になる銘柄はざらにあります。長期のほうがリスクが高いというのはそういうことです。それなのに「長期は安定」と説明されて、なんとなく納得してしまうのはどういうことなんでしょうか?

説明の仕方は一つではありませんが、例えば簡単に間違いだと分かるのは、単年の騰落と複数年の移動平均を比べてしまっているケースです。株価指数は毎年上がったり下がったりしますが、過去10年のパフォーマンスの年平均値を比べれば、去年と今年で大きな違いは出ないはず。移動平均が各年の騰落よりなだらかな曲線を描くのは、当たり前ですね。

長期で持っているほうがパフォーマンスが良かった、と実績が示されているだけの説明もあります。そのような結論に至るのは、結局株価が上がっている、少なくとも右肩下がりになっていないからです。積み立て投資していれば、いわゆるドルコスト平均法の効果で、株価が横ばいでもパフォーマンスはプラスになります。しかし株価がずっと右肩下がりですと、長期であればあるほどパフォーマンスは悪くなるでしょう。

長期投資を奨める理由は、実は「じっと持っていれば上がるものを、途中で売ったり買ったりするのは効率が悪い」ということなのです。この「じっと持っていれば上がる」と明言できないから「安定」という表現で誤魔化している、とも思えます。でも「じっと持っていれば上がる」ということこそが、本当は重要なのです。

本当に伝えなければならないことは、株価が経済成長とともに上がるということ(ただしデフレであってはいけません)、それは運でも偶然でもなく、合理的にそうなるのだということです。それは経済成長の源泉が、企業の利益だからです。経済が成長しているのに、全企業の代表選手団である上場企業全体の利益が上がっていない、などということはあり得ないのです。そして企業が利益を上げれば、株式の価値が増え、株価はそれを反映して上昇するのです。

大事なのは、皆が働いて価値を生み、経済成長を続けること、企業は利益を成長させ、株式市場と経済の成長が好循環を生んでいくことです。そして誰もが手軽に経済成長の恩恵を受けられる、というのがインデックス投信の積み立てという方法であり、それに税制上の特典を付けたものが「積み立てNISA」というわけです。

長期投資が安定しているとすれば、それは投資家の心理状態かもしれませんね。そういう意味なら間違いとは申しません。

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インフレで伸びる消費もある・進む改革もある [市場と経済]

前回の投稿では、株価についてはあまり心配していない、なんたってインフレ経済が始まったのだから、ということを書きました。物価は上昇基調にあるほうが、企業経営はしやすいという話です。

でもきっとまだ、インフレと聞くとネガティブな印象を持つ人はたくさん居るでしょう。経済関係のニュースでも、物価上昇で消費は減るだろうから、という解説をよく耳にします。同じだけの予算で買い物する場合、値段が高いほうが買える量は、当然少なくなります。ですから消費者が予算を増やさないならば、実質的には経済は成長できません。だから消費が減る、という表現になるのでしょう。

ここで敢えて疑問をさしはさみましょう。消費者は皆、上記のケースの前提条件である「同じだけの予算」で買い物をするでしょうか。メディアに出てくる話はすべからく、給料が上がらないんだから余分に出費なんかできない、というストーリーに聞こえます。でも本当にそうでしょうか。

過去1~2年の間に、消費者のマインドはかなりの程度、デフレ対応からインフレ対応にシフトしているのではないかと私は感じています。このことは大きな変化です。消費行動に直接見えやすい形で現れるものではないかもしれませんが、意識の底で、何かが変わっているはずです。

デフレの下では、たとえば店頭で商品を見て「高いな」と思ったらまずは買いません。他にもっと安い店があるだろうし、待っていれば下がることが期待できるからです。ところがインフレの下では、「高いな」と思っても、必ずしも買わないことが合理的とは言えなくなってきます。他の店ではもっと高いかもしれない、待っているともっと高くなるかもしれない、と感じるからです。これがインフレマインドということでしょう。

これまで「高い」と思って買わなかった人は、お金が足りなくて買わなかった人ばかりではありません。待っているほうが合理的だったからです。言い方を変えると「今買うと損」と感じながら買い物をしていたのです。物価が上昇基調になって消費量を減らす人は、マインドが変わって予算を増やしたくても増やせない人です。しかし、デフレ下で緊縮していたけれど、インフレが始まったおかげで買い物の予算が増える人は少なくない、と私は思います。

インフレ基調になって、名目的に経済が成長するようになると、色々な意味の構造改革もしやすくなると思います。改革するということは、多くの場合「資源の配分の変える」という行動を伴います。金額の増えないデフレ下で配分を変更しようと思うと、誰かの持ち分を削ってほかに持っていくことになります。それはとても難しい。しかし、名目値であっても金額が増えるのであれば、増やすべきところには、成長によって増えた分を配分すればよいだけです。

10年前のアベノミクスでは、デフレが止まり、株価が上がり始めるところまでは良かったものの、規制改革による経済成長とまでは行きませんでした。当時どんな改革が期待されていたのかさえも忘れてしまいましたが、今後は出来れば政府の旗振りなどに頼らなくても改革が進むよう期待したいものです。

企業の経営効率の低さに拘る弱気の虫も、時々目にします。ROEや売上利益率の低い企業は、確かに数多く存在します。デフレとは直接関連しないかもしれませんが、低金利と企業の効率の低さは無関係ではありません。

金利が低いということは、低い利益率でも生きていけるということにほかなりません。金融政策から経済が受けてきたメッセージは、「利益率なんか低くてもいいんだよ、会社が潰れないこと、雇用が保たれることが大事なんだ」というわけですから、日本企業の平均的な利益率が低いのは、ある意味合理的とも言えます。金利というものは経済全体でつながっているものですから、超低金利の下で、企業の利益率だけ高くしろと言っても、限界があるのです。

超低金利を日本は長く続け過ぎた、というのはかねてからの私の持論ですが、漸くそれも終わりに近づいている、と期待しています。

今年もブログをお読みいただき、ありがとうございました。
新年も右肩上がりの良い年になりますように。

龍の絵は、原田直次郎「騎龍観音図」から。

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物価は上がっているんだから… [市場と経済]

日本の株式市場は何となく強いようです。日本の経済指標がそんなに強いわけでもないし、世界景気の先行きも、必ずしも明るいわけではないのでしょうが、それでも株価がそれほど下がる気がしないというのが正直な感触です。その根底にあるのは、物価上昇。インフレ経済の到来です。

消費者物価指数を見ると、2021年の秋ごろから前月比プラスが定着、前年同月比で見ると、2022年の8月以降は3%を1度も下回っていません。安定的な上昇率がどこに収まるのか分かりませんが、物価の上昇基調は続くと思っています。一般的な報道を見ていると、原燃料の物価が上昇しているのに賃金が上がらない、というトーンばかり感じられますが、最近は人件費と思われる物価上昇も目に付くようになってはいませんか?

いわゆる正規労働の賃金は上がっていないのかもしれませんが、パート・アルバイトの時給はここ10年ぐらい、なんだかんだ言って上がり続けています。事務系の職種などはむしろ下がり気味ですが、元来水準の低かった外食や販売員、物流や清掃といったところが強いようです。正規労働の賃金は、雇用のシステムや年齢構成など、経済以外の要因も色々とありそうですが、たとえば初任給の統計を見ると、上昇傾向は続いています。今国を挙げて熱心に取り組んでいる働き方改革は、人手不足を深刻化させる要因ですから、今後も簡単に労働の需給が緩むことはないように思います。

為替レートも物価に効いて来ます。為替の予想をするつもりはありませんが、居心地のいい水準が、110円を中心とした辺りから、140円なのか150円なのか、明らかに居場所を変えた感があります。

私は購買力平価の図を時々眺めるんですが、2022年は超長期的にフェーズが一変した記念すべき年のように見えます。1985年に円レートは、購買力平価を大きく円高方向に離れ、日本経済に大きなインパクトを与えました。そしてそのまま日本は35年あまり、円は高い高いと言いながら、経済を運営してきました。円は高い水準を保ち、日本の物価に下落圧力を与え続けたのだと思います。

私のように株式の価値を拠り所に投資をするという発想ですと、円レートだって高すぎるならば、それを是正する方向に動いても良さそうなものですが、為替市場というのはそういうものでもないんでしょうね。物価のほうが35年かけて為替レートの指し示す水準に近付いてきた、というふうに見えます。そしてこれからは、円安が物価を引き上げる方向に導いて行くよ、とでも言いたげです。

デフレ時代の30年は、経済活動について言えば、改めて大変だったな、と思います。単純化した議論ですが、普通にビジネスしていると、売上は減るわけです。売っているものの価格が下がるのがデフレですから、同じ売り上げを得るのにより多く売らなくてはならないことになります。何とか打開しようと海外へ出れば出たで、円高ですから、投資した資産価値は減り、売上には下落プレッシャーがかかります。その一方、何もしないで円の現金を抱えていれば、財産は減らないわけです。

よく「企業は現金を抱えこんでけしからん」という政治家が居たり、「日本の個人は現預金ばかりで金融リテラシーが低い」などという金融教育家が居たりしますが、どちらも全く合理的な金融行動なのです。投資して頑張ってもデフレ下では報われない、というのが合理的な答えなのです。

物価が上がるということは、金額が増えるということです。「実質」も大事でしょうが、私たちは多くのことを、お金の額で測っています。そしてそれは「名目値」なのです。実際の経済は多くの場合、名目値で認識されているのです。企業の売上や利益も、名目値です。売上が5%伸びている時に、「インフレ率が3%だから実質売上は+2%だね。」なんて言う人はいないのです。もちろん株価も名目値です。だから株式市場も大丈夫。なんたって物価は上がっているんだから。

インフレ経済の到来は、歓迎すべきことです。経済経済というならば、物価高を悪く言うような言動は避けるべきです。物価高で苦しむ個人を援けることは、福祉政策ではあっても、経済政策などと呼ばないでほしいものです。正規雇用の賃金が上がっていないとすれば、それはまだ物価上昇が足りないということに過ぎません。常用労働の指標は、景気動向指数でも「遅行系列」に含まれます。経済に遅れて動く、という意味です。

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運用が安定している、とは? [投資スタイル]

運用が「安定している」という表現はよく使いますし、一般にそれはリスクの低い運用であることを意味すると言ってよいと思います。ただ、「安定」という意味があやふやだと感じる事例が時々あります。確信犯ということもあるかもしれませんが、以下は最近遭遇した2つのケースです。

一つはオンラインでよく目にする資産運用関係の広告です。オルタナティブ投資だと謳っていますが、中身を見ると要は不動産投資のようです。それが悪いという気は毛頭ありませんが、宣伝文句の一つは「安定資産」だというものです。

不動産投資が安定している、というのは、感覚的に納得感があるのでしょう。文字通り、地に足がついていますからね。でも、運用対象として安定しているかどうかは別の話ですし、安定の意味するところが「低リスク」なのかという話になると、ますます疑問です。

株式は確かに毎日価格が上がったり下がったりして、安定感に欠けるように見えます。しかし不動産価格が安定して見えるのは、流動性が低くて毎日値付けが出来ないだけ。もし不動産に毎日値をつけることができるならば、きっと価格は動いていると思います。見えないから動いていないということではありません。だからリスクが低いわけでもありません。売りたいときに売れる(=流動性の高い)株式のほうが、リスクが低いに決まっています。

もう一つの例は、金融教育のカリキュラムの中にありました。資産運用は「長期投資」であるべきだということを説明するくだりです。そこでは長期のほうが「安定したリターンの獲得が期待できる」、「リターンのぶれの抑制が期待できる」となっています。そこで実証として、内外の債券株式、つまり4資産に分散して投資した場合のシミュレーションが載っています。1年ごとのリターン、5年ごとのリターン、10年ごとのリターンと比べているのです。すると確かに、期間の長い方が、ぶれが小さくなっているわけです。

ただ、「長期=安定・低リスク」は正しくありません。結果がそうなっているのは分散投資の効果でしょう。短期で見ると、分散したはずの資産が同じ方向に動くこともあるでしょうから、分散投資は、短期より長期のほうが安定した効果が得られるのだと考えられます。

しかしそれぞれの資産は、長期的に保有していれば、それだけ結果の振れ幅が大きくなります。株式の1銘柄は、1日で半分や倍になることはありませんが、5年保有していれば、全く珍しい事ではありません。これは1日と5年を比べれば、5年保有するほうがリスクは高いことを表します。

長期であるほど安定している、リスクが低い、と感じてしまうのはなぜなのか、過去にも考察がありますが、再度考えてみました。

たとえば「1日の値動き」を思い浮かべる時、その動きは偶然や気まぐれによって支配されています。所謂ファンダメンタルズは1日では動かないからです。それを私たちは「予想不能」「全く分からない」と感じます。一方「5年」という期間を思い浮かべる時、多分誰もが5年前から現在にかけての期間を思い浮かべるでしょう。するとその間の値動きは、それほど予測不能で不可解なものだったとは感じません。私たちは過去5年に何が起こったか既に知っていて、株価がそれを反映して動いたことを確認できますから、「予測不能で不可解だ」とは感じないのです。

しかしこれはフェアではありませんね。本当は今日から5年間の株価を予想しなければならないのです。5年後を予想することは、明日を予想することより遥かに難しいものです。起こりうるシナリオは、1日よりも5年のほうが遥かに多いからです。「リスク」の理解はかくも難しいもの。リスクが高くとも、投資は長期であるべき、という結論は変わりませんが。

→ 何年持てば長期なの?


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リクルートの株主総会 ~求人から見る世界景気は? [株主総会]

月曜日、26日は、リクルートホールディングの総会にリアル参加。

リクルートという会社は、私が社会に出たころは目立って元気な会社の一つで、当時から有名な女性取締役がいらっしゃいましたし、私も就職活動でその方のお話、伺いました。しかしその後は大きなスキャンダルもあり、バブル崩壊もありですっかり視界から消えていたところ、気が付いたらグローバルに展開する上場企業になっていた、というわけです。今や売り上げの6割が海外で、取締役も8人中お二人が外国籍、プレゼン資料にも英語が多用されています。

春先までは絶好調で来たけれど、アメリカで銀行の破綻が起きたあたりから、求人の市場は急速に冷えてきて、今期は減収減益です。ただ、会社予想の数字は発表されていません。質疑応答で、その点に不満を表明した株主がいました。なぜこの時期になっても業績予想が出せないのか、と。

それに対する回答を聞いていると、マーケットの状況が相当悪いらしいということが感じ取れます。アメリカでは今、リーマンショックの時の倍のペースで求人が減っているのだとか。山が高かっただけに落ち方も激しいということですね。そのゆくえが読めないというのは、現状に基づいて素直に予測してしまうとあまりにひどい数字になるので、本当にこんなに弱気でいいんだろうか、という迷いを表していると私は理解しました。世界景気の先行き、要注意です。

私も一つ質問しました。Indeedの求人に闇バイトが混じっていたという事件が報道されていましたが、つまりIndeedに載っているアルバイト先に行って、言われるとおりにやったら警察に捕まっちゃった、ということですよね? Indeedに載る求人の、いわばクオリティーの問題です。クオリティーコントロールはどうなっているんですか、と。

月間3億人が利用するサイトには、膨大な数の求人が寄せられ、その審査の過程で毎月数千万件の求人が省かれているそうです。その審査をもってしても、虚偽の情報を検知するのは困難だということ。ユーザーからの通報制度を設けたりもしているそうですが、とにかく十分な問題意識を持ってやっていただきたいですね。回答したのは、若い女性の取締役。落ち着いた話しぶりで、好感が持てました。

変わったところでは、「仲間を動かすコミュニケーションのあり方」という質問。CEOがテレビ番組でそんな話をしたらしいのです。新しいことを始めるために、どうすれば周りがついて来るのかアドバイスがほしいというわけです。株主の質問というよりは、お悩み相談ですね。回答は長くなるので省略しますが、こんな質問も、如何にもリクルートらしくていいんじゃないでしょうか。

収益をIndeedに頼り過ぎではないかという質問もありました。CEOの回答は、ひと言で言えば「それでいいのだ」ということ。この事業にこそ、リクルートの強みがあるのです。求人のマーケットは本当に大きくて、世界でまだまだ成長できるのだから、求人で世界のナンバーワンになることこそ正しいと考えている、というお答えでした。その回答に、3人分くらいパラパラと拍手が起きましたので、私も参加しました。

人材を扱うビジネスは、国内でもまだこれから面白いと思いますし、国境を越えて展開することにも、可能性を感じます。足元の業績はかなり厳しいのかもしれませんが、景気の波は仕方のないことですから。

終了後に、新任取締役のごあいさつ。外国籍の女性、ダイバーシティーのポイント高いですね。この方もけっこうお若い。すごく早口の英語で話し出したと思ったら、その後にきれいな日本語バージョンが続きました。

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ダイフクの総会  さくさく進んで35分で終了 [株主総会]

水曜・木曜と所要のため、総会への出席はお休み。
金曜日はオンラインでダイフクの総会を視聴しました。この日は心惹かれる総会がほかにいくつかありましたが、これまで書いたことのない総会をチョイス。

ダイフクもこの10年でものすごく株価の上昇した銘柄です。アベノミクス直前は130円くらいだったものが、今は3千円近辺ですから。私は実は、低迷していた頃のことはあまり覚えていません。気が付いたら誰もが知る成長株になっていたというわけで、投資したのも比較的近年。ピークからかなり下がってはいても、それほど株価が安いわけではありません。

結論から言うと、事業環境はまだ当分良さそう。ここ何年か、物流倉庫への設備投資が話題になっていましたが、半導体にしても、自動車にしても、設備投資はまだまだ必要でしょう。運ばれている最先端の製品たちは、技術の進化で競争条件がガラッと変わったり業界地図が激変したりすることもあるでしょうが、それを搬送している機械はどうでしょう。当然高い技術は必要とされながらも、新たなライバルに急に入れ替わるとは想像しにくいんじゃないでしょうか。

株主からの質問に、自動車がEVになることでどんな影響があるのか、というものがありました。現在自動車向けは好調なのだという回答。今後のEVの生産に対応すべく、設備投資意欲は旺盛なようです。エンジンがバッテリーになると重量が増して、これまで吊り下げていた搬送方式を、ガラッと変えなくてはならないんだそうです。車体がそんなに変わるわけでもないでしょうから、既存の工場の一部をEV対応にすることが多いのでしょう。

人材確保については、今のところ採用ができなくて困るということは無いようですが、女性についてはなかなか大変とのこと。機械系の技術者となると、そもそも数が少ないわけです。現在社員の女性比率は14~15%、外国人比率も同じくらい。今年はインドから女性を2人採用したんだそうです。

総会は非常にてきぱきと、気持ちよく進みました。始まる時に「事前配布の動画をご覧いただいたと思いますが…」と切り出されて、あ、予習が必要だったんだなと。ですから事業報告も要点だけ簡略に済ませ、今後の課題を3つにまとめ、株主質問が始まるまでにかかったのは約15分。業績が好調だからということも間違いなくあるんですが、質問の受け答えも淀みなく、整理されています。

閉会は10時35分。短時間で終了です。その後新任の取締役の紹介。一人ずつマイクの前に呼ばれて、何か話をするのかと思ったけれど、「よろしくお願いします」だけでした。ちょっと拍子抜け。でもこれがふつうですね。

終わってから、事業報告の動画、ちゃんと視聴しました。

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3年連続ソニーの総会、今年は久々のリアル [株主総会]


火曜日、ソニーの株主総会は、コロナ後初めて出席するリアル総会でした。

30分以上余裕をもって会場に着いて中に入ると、一列目のど真ん中に20~30人、間を空けずに座っているのは、社員株主でしょうか。今どき総会対策というものがあるのかどうか分かりませんが、白髪頭が一人もいない集団が一言も発せずにじーっと座っているのは、やはり少々不自然です。

私もせっかくですからできるだけ前のほうに着席しました。最前列、係員の隣の席には白杖を持った出席者が1人。ひな壇の下には要約筆記画面が置かれていて、聴力障碍者であれば、その画面の前の席に座るのでしょう。バリアフリーな株主総会への努力。

かつては一部屋に収まらないほどの出席者が集ったことを思えば、会場は寂しいとも言える出席数です。後のQ&Aで、会場に来てみて参加者が少なくて驚いた、と発言した株主もありました。配信で視聴する株主が増えたからだろうとは、誰でも思いつく要因ですが、それだけではないのかもしれません。技術の最先端にいる、という高揚感はあまり感じられません。今は昔、でしょうか。

業績は、金融部門がノイズを発して凸凹していますが、右肩上がりと言って良いでしょう。為替の影響もプラスですから実態以上によく見えるということはあるにしても、株価は円建てなんだし、素直にポジティブと受け取っておきましょう。株主から、称賛と応援の発言もありました。是非言いたい、と言って発言してくれる株主はありがたいものですね。

金融部門はスピンオフを考えている、という説明がありました。独自の資金調達力をつけてほしいからと。他の部門とは異質ですから、そのこと自体に異論はありません。それにしても、親子上場が悪いと言ったり良いと言ったり、ファッションの流行みたいなものなんでしょうか。

ソニーが目指すのは「クリエーターに選ばれる会社」。イメージ動画には色んな表現が出てきますけれど、これが一番分かりやすい、というか、私にはピンときます。数年前に元気が出て来てからのソニーは、この路線で変わっていません。ただ昨年との違い、気になったのは「ソニーホンダ・モビリティー」の話題が影を潜めたこと。事業報告でほとんど言及が無かったので、誰も質問しなければ私がしようかな、と思ったら、割とすぐに出ました。2025年から先行受注。数を追わず、高付加価値モデルと高付加価値サービスの提供を目指す方針だそうです。

株主の質問では、当然のようにAIに関するものや株主還元について、またアフリカでの事業活動なんてちょっと変わった話題などありまして、最後の質問は、元社員という女性から、社外取締役からコミットメントなど話を聞きたい、という要望でした。それはいいね、と思って聞いていたら、議長が指名したのは、これまで取締役会議長を務め、今回退任する社外役員だったのですね。「コミットメントを聞きたい」と要望されているのに、退任する人を指名してどうすんのよ、と思ったのでした。

こういうところに、今のソニー経営陣の性格が現れているような気もします。この指名は、「自分と気心の知れた人物ならば安心だ、よく知りもしない社外役員など、何を言うか分からないからやめておこう」という心の声が聞こえるようです。リスクを抑えるのはもちろん大切なことです。かつてはクリエイティビティ―に走り過ぎて、お金を稼ぐことを忘れた組織。それを立て直したのは多分こうした、慎重で細かい計算ができて地味な仕事をする人たちだったのだと思います。それが、今ひとつ高揚感に欠けた株主総会となっている要因だとしても、非難すべきことではないのでしょう。


→ 2022年の株主総会
→ 2021年の株主総会
→ 2008年の株主総会
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シーズン1社目は第一三共・・・今年から招集通知の封筒が薄くなりました [株主総会]

今年から、株主総会に必要な資料の交付は電子的に行うだけでいいという規則になったので、送られてくる招集通知の封筒が薄くなっているものも多くなりました。それらの企業は、総会の議題だけに絞って送付している場合がほとんどですが、議題さえも含んでいない書面のケースもあります。もちろん、事業報告まで含んだ従来通りの書類を送って来る企業のほうが多いとは思います。これまでと違うことをやろうとすると、それなりのコストがかかりますからね。新ルールへの対応は、企業それぞれということです。

総会シーズンの1社目は今週月曜日の第一三共。当日は所用で、11時には出掛けなければいけなかったので、そのぎりぎりまで、オンラインで視聴しました。ですから最後までは聴けずに残念でしたが、それでもそんな隙間の時間に株主総会の様子が見られるのですから、オンライン化はやはりありがたいことです。ちなみにここの書面も、議題のみの薄い冊子です。

この銘柄は、過去10年で最もパフォーマンスの良かったものの一つです。ただ本格的に上がり始めたのはこの4年ほどで、それまでには苦節20年といったところ。新薬の開発は本当に大変です。過去の経緯については、2019年にブログ記事があります。

株価が示す通り、がん領域の製品は予想を超える出来のようで、中期計画が年度初めに上方修正されています。順調な時の株主総会は、むしろあまり面白い話が無いもので、第一三共もご多分に漏れず。ジェネリックの子会社を、調剤薬局のクオールに売るという話がありました。先月公表されてますね。事前質問で、譲渡金額の妥当性を問うものがありました。金額はともかく、ジェネリックの売却は合理的と思います。

Q&Aではその他、女性役員の登用であるとか、為替の影響とか、株主還元などがとり上げられました。特筆すべきこと無し。特定の薬についての質問もありましたが、門外漢の私には評価できません。

ちょっと面白かったのは、社長に「座右の銘を教えてください」という質問。奥沢社長はマハトマ・ガンジーを引用していました。インドに赴任していたとのことですから、あのランバクシー社に関わっていたのでしょうか。そういう質問で、考えるでもなくスラスラと答えが出てくるというのは、大企業の社長ともなると、そういう質問はよくあることなんでしょうかね。

「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」 マハトマ・ガンジー

 → 2021年の株主総会 



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ようこそ、インフレ経済 [市場と経済]

日本株の上昇が巷の話題になるというのも久々です。流石に足元は熱くなりすぎているように見えますが、徒花という感じでもありません。「外国人が買っているから上がっている」などと解説されますが、外国人が買うのは別に自然現象ではなく、彼らも理由があって買っているわけです。

日本の株式市場がインフレ経済の到来を感じているのだと、私は思っています。相場っぽい表現なら「好感する」と言いますね。燃料や小麦粉や卵だけが上がっているわけではなく、最終製品の小売価格が上がり、働く人の賃金に波及する、という好循環の始まりを予想して、市場が反応しているのでしょう。

インフレは株式市場に有利だと、ここで当たり前のように述べていますが、そこがイマイチ腹落ちしていない、という人のために、復習です。インフレだからと言って株価が上がるとは限らない、という説も聞くでしょうから、それぞれ何を言っているのか整理しましょう。

株価は企業の収益を反映します。企業が利益を上げれば、株式の価値が増します。企業への出資者は、利益の分け前をもらう権利を持っているので、その権利を形にした株式の価値が増すわけです。そしてその企業収益というのは、「名目値」です。

「名目」というのは、「物価の上昇分(または下落分)を含む」という意味です。売っている商品やサービスの価格が上昇すれば、売っている数量が同じでも、売り上げが伸びます。この時仮に、すべての物の価格が同じペースで上がるならば、売り上げの成長率とコストの増加率は同じになります。するとその差である利益も、同じペースで伸びることになります。つまりインフレ経済の下では、たとえ実質的に成長しなくても、売上や利益が伸びるわけです。

現実には、全ての物の価格が同じペースで上昇することはありません。よくあるのは、燃料や原材料の価格だけが上がって、商品の価格全般に波及しないというパターン。すると売り上げが伸びないのにコストだけ増えるという企業が多く出てきます。インフレと聞いて、景気にネガティブなイメージを持つ人は、多分この状況を思い浮かべているのでしょう。また物価全般が上昇しても、変化が急激に起きることで経済が混乱する、というパターンも考えられます。

インフレだからって株価が上がるとは限らないという説は、こうした解説を伴うことになるでしょう。ただ、原燃料だけしか上がらないのであれば、「インフレ経済」とまでは言えません。原燃料の上昇に見合って商品の売値を上げることができ、従業員の賃金を引き上げることもできて、インフレの好循環が実現する。それで初めて「インフレ経済」です。

私が社会に出たころは、経済環境はまだインフレ的でした。企業の業績予想はとりあえずプラス5%から始まる、というイメージでした。日本は決して成長経済ではありませんから、昔のように簡単に成長できるとは言いませんが、過去30年のデフレ期に比べれば、楽になるはずです。

ついでに申し添えますと、インフレは企業の毎年の決算に有利なだけではなく、企業の保有する資産にもプラスに働きます。こうした好環境の到来を株式市場が歓迎しているように、私には感じられるのです。


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