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雇用逼迫するアメリカ [市場と経済]

アメリカでは、雇用がひっ迫して賃金の上昇圧力も強い、と報道されています。労働者の賃金水準に対する態度も強気なようです。そうか、アメリカはそんなに景気が良いのか、と思うのは自然なリアクションでしょう。でも雇用の逼迫というのは、仕事が増えるだけではなく、労働者が減ることによっても生じます。賃金が安いならば働かなくてもいいや、と思う人が増えれば、雇用は逼迫し、賃金の上昇圧力が高まります。そこには、長期にわたって続く米国株の上昇も、一役買っているのではないでしょうか。

米国では老後の蓄えに株式や株式投信を買うということが、日本よりは遥かに一般的に行われています。そして米国株は、ドットコムバブルの崩壊やリーマンショックを乗り越えて、それ以降は大きな下落局面もなく、右肩上がりとなっています。裏付けとなる統計などを見たわけではありませんが、たとえば30代でいくばくかのお金が貯まっていれば、株式を買うのはごく普通のことでしょう。

10年前に個人でMicrosoftやApple、Amazonなどの株式を保有していた米国人がどのくらい居たか知りませんが、そのまま持ち続けていると、ざっくりMicrosoftなら10倍、Appleで12倍、Amazonならば20倍弱です。どれか1銘柄以上100万円分持っていたら、今は1~2千万円になっているということになります。10年前既にこれらは、プロの投資家しかしらないようなものでは決してなく、誰でも知っている銘柄だったはずです。保有している個人はどこにでもいたと思います。

そんなにキラキラした成長株を持っていなくとも、何も考えずにインデックス投信を保有していた個人投資家だって、資産は3.5倍になっているのです。強気にもなるわけです。また雇用は日本と違って流動的なのが当たり前ですから、働きたくなったら探せばいいと、誰もが思っているのでしょう。そう考えると、雇用がひっ迫して賃金が上昇している状況がよく理解できます。

日本から見ていると、あれもこれも高嶺の花に見えますが、日本の株式指標である東証株価指数を同じように10年前と比較すると、約2.7倍になっています。日経平均ならば3.3倍です。アメリカの指数と大差ありません。本当の問題は、アメリカ株が上昇しているのに日本株がパッとしなかったことではなく、株式投資している個人が少なかったことではないでしょうか。

日本では損が出たときしか騒ぎになりませんが、本当はもっと豊かになれた人がたくさんいるんだ、といって騒ぐ人が居ても良さそうなものです。自分が上手くやって豊かになっている人は騒ぐ必要が無いし、チャンスをすっかり逸してしまった人は、未だに気づいていないということなのでしょうか。もし気付いていても、自分がバカでした、という話なんてきっとする気にもならないし。

さて、先日の新聞報道では、昨年は個人が日本株を10年ぶりに買い越したとありました。しかも若年層が資産形成で買っている、と。気を取り直して、これからの世代に期待しましょう。私は、株式抜きの資産形成はあり得ない、と思っています。

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新年の雑感 ~「スワロウテイル」~ [市場と経済]

スワロウテイル」という映画がありまして、1996年の公開という、そこそこ古い映画ですが、見たのは昨年の巣ごもり生活中。タイトルと映画のポスターの図柄に見覚えがありました。

舞台は近未来の東京のようにも見えるYen Townと呼ばれる都会と、その荒れた郊外やスラム街。他所からやってきた中国人が大勢住んでいて、三上博史やCharaの演じる登場人物もそこに住む中国人という設定。ちゃんと中国語で演じています。特に面白い話とも思いませんし、公開当時に見ていたら何も感じなかったかもしれませんが、描かれている時代の景色、それが1996年に作られたということに、心を揺さぶられました。

東西の「壁」が崩れ、なし崩し的にグローバル化の進んだ時代。日本にもアジアを通じてその波が押し寄せていました。「アジアの純真」なんて言う歌も流行りましたが、今にして思うと、無秩序なイメージがグローバル化の勢いを上手く歌っていたと思います。「スワロウテイル」に漂う空気は、その無秩序さの一方で、熟しきって甘ったるい薫りを放ちながら朽ち始める日本経済を象徴するかのようです。

Yen Townというのも、なんという絶妙なネーミングでしょう。1995年の「¥」は最強でした。本当に世界中が買えそうな勢いで、私もふだん着る服の多くをカタログ通販でアメリカから買っていました。まとめ買いすれば郵送料を払っても安かったのです。生活実感だけではなく、購買力平価の図(下のグラフです)を見ても、円の強さははっきりと見てとれます。赤の「消費者物価」と紺色の「実勢相場」のギャップがそれを表します。あの時が歴史的に見ても「最強」だった、と分かるのは、それなりの月日が経ってからですが、市場の中に居る専門家より、外に居る映画人のほうが、真実が見えていたのかもしれません。

最近の円安で、円の購買力が50年前と同じになった、と書かれた記事を見かけました。それはこの図の右端で、赤の線と紺色の線が交わっているということを表します。円高に振れるたびに、この国では「大変だ、大変だ」と騒いできました。内外の物価が均衡するレートに対して高すぎたのであれば、そう言って騒ぐのも良いでしょう。それがやっと均衡するレベルまで是正されたわけです。(50年前が均衡点と見做されている、という議論についてはここではしませんので、他で探してください。)

実力以上に円が評価されてきた背景には、色々な要因があるでしょう。当初は経済成長力だったでしょうし、それが衰えた後も、日本は投資先や投資する人が居ないだけで、お金はある国ですからね。他国に比べれば社会も安定していますし、国民も一応勤勉です。長年かけて、そうしたプレミアムが縮んできたというわけです。

過大評価が是正されたという意味では、過度に悲観しなくてもいいと思いますが、このグラフを見ていると、高すぎた円が安くなって是正されたのではなく、物価のほうが下がって是正されているように見えます。心配なのはその辺りじゃないでしょうか。これまではデフレが止まらない背景に、円の慢性的な過大評価があったのかもしれません。今後はデフレ要因が一つ減るということになるならば有難いこと、紺色のラインに押し上げられる形で、赤のラインが上向くよう願いたいものです。

構造的に円安になっているとは、まだ思えません。世界的に景気の良い時は円安になるのが普通です。お金だけはあって投資機会の乏しい日本から、投資機会の多い海外へ円が出て行くからです。去年から今年にかけては、まさにそうなっているんじゃないでしょうか。個人の株式投資も然り、ですね。

今年もよろしくお願いします。

(図は「公益財団法人 国際通貨研究所」のホームページからお借りした「ドル円購買力平価と実勢相場」のグラフです。クリックすると大きく見られます。)

2022-01-07 (2).png

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ESG投資を実践するには [投資スタイル]

このテーマでもっと早く書こうと思ったのですが、投資のテーマとして色々と動きのある分野でもあり、私自身まだ不勉強な部分もあり、文章にまとめるのに想定外の時間がかかってしまいました。

ESG投資が盛んになって来た背景について、一度今年の5月に書きました。その時も触れましたが、ESGという用語は新しいものの、社会課題に向き合う投資活動というものは、以前から存在します。SRIだとかCSRだとかいう呼称で株式の運用も行われてきました。株式投資の具体的なやり方として古くからあるのは、環境や社会にとって良くないことをしている企業を除外する、または逆に良いことをしている企業をピックアップする、といった「スクリーニング」の手法です。

スクリーニングによる投資は、限られた投資対象にフォーカスするということになりますが、ESG投資が当たり前になってくると、一部の銘柄だけを扱っているわけにも行かず、通常の運用にESGに関わる情報の分析を取り込んでいく、ということにもなります。機関投資家など規模の大きな投資家であれば、ESGを意識して事業を行うよう、株主としての影響力を行使しよう、ということも起こってきます。議決権行使によって、その意思を表明するということも可能です。特にインデックス運用の場合は、ESGの評価で銘柄を選ぶということは出来ませんから、そうした方法で、ESGを意識した投資の実現を図るしかありません。

個人投資家として、株式市場でESG投資を実践しようとすると、どういう選択肢があるでしょうか。既に巷には多くのESGを標榜した投資信託があるので、そうした投資信託を買えばよい、というのが一番簡単な回答でしょう。ESG指数なるものも複数あって、インデックス投資もできます。このような投資信託や指数の組成に当たっては、ESG専門の評価機関が企業の分析・評価に関わっているわけで、我々はその評価を信頼して投資するということになります。

個別銘柄に投資する場合には自分で情報収集することになりますが、企業の「統合報告書」が、ESGに対する取り組みに多くのページを割いています。かつては「CSRレポート」といった名称がよく見られましたが、5~6年前からでしょうか、アニュアルレポートと一体化した「統合報告書」を作成する企業が増えています。事業活動とESGは別個の物ではなく、価値創造の基盤に社会的責任を重視する姿勢が無ければならない、という考え方が主流となり、企業の情報開示もその流れの中にあるのです。

統合報告書は多くの場合、とても美しく整っていて、企業がESGにどのように取り組んでいるのか分かるようになっています。それは大変良いことなのですが、それでスッキリ納得できるかというと、そう簡単なものでもないというのが正直なところです。どういうことかというと、そこで分かるのは、「企業がESGに熱心に取り組んでいる」というところまでです。もう少し意地悪く言えば、「企業がESGへの取り組みの情報開示に熱心である」ことが分かる、という言い方もできます。

たとえば環境を守る活動に熱心だと言っても、本当に環境保全につながっているかどうかまでは分からないということです。ただそれは誰が悪いわけでもなく、ESGについての評価は誰がやっても難しい、というのが実態ではないでしょうか。世界にいくつかある専門の評価機関の評価のクオリティーまで批評する能力は私にもありませんが、各企業の「実際の社会的貢献の度合い」より以上に、「ESGの情報開示の質」を評価することになっているのでは?などと思わないでもありません。

ただ機関投資家にとっては、情報開示がきちんとされているということは、決定的に重要です。なぜならば、情報開示が悪い=リスクが高い、ということですから。もちろんそれは個人投資家にとっても同じですが、そのリスクを自分でとるつもりならば構わないわけです。機関投資家の場合は、その背後にいる最終投資家に報告する義務がありますから、勝手に高いリスクをとるわけにはいかないのです。それを考えると、ESGの評価と言ったときに、実際に環境や社会に与えるインパクトと、ESGに取り組む姿勢、そしてその開示の良し悪しの評価が、混然一体となっている状況は容易に想像されます。

先日は、非常によく使われているあるESG指数の評価基準が、実は環境や社会への貢献を評価しているわけではないという、一種の暴露記事を目にしました。それぞれの企業がESG絡みのリスクをどの程度負っているか、ESG要因から企業収益がどのくらい影響を受けるのか、といったことを評価しているのだというのです。真偽のほどは分かりませんが、ESGの評価も指数の作成も、運用のニーズに応えるビジネスです。投資家のほうが試されているのかもしれません。

専門家が評価するのも難しいESGですから、むしろ個人は個人らしく評価するのも良いと私は思っています。プラスチック容器を減らす努力とか、燃料を節約する努力とか、気になったことがあればそれが銘柄選択のきっかけになる、というのはおおいに有りです。たとえば私は、いつも洗濯機を使う時に、使う水や洗剤の量が、ちょっと昔に比べてものすごく減っていることに思いを致します。そのことがどれだけ環境保全に貢献するのか分かりません。洗剤や洗濯機メーカーのESGスコアに効くのかどうかも知りません。でも、確かに信じられる事実がそこにはあるように感じられます。専門家が見るのとは違う視点を持てるのが、個人投資家の良さでもあると思うのです。

さて、今年はこれが最後の投稿になりそうです。
2022年もまたよろしくお願いします。
良いお年を!

タグ:ESG投資
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公的な資金を運用するということ [市場と経済]

今日の日経新聞に、「大学基金 身構える銀行」という見出しがあります。政府が10兆円規模の資金を運用機関に預けてその収益を研究資金や人材育成等に充てる、というのが大学基金の構想だったと思いますが、記事では、預けてくれても運用先が無くて困るということが語られています。

基金構想の良し悪しを論評することはここではしませんが、大学基金に限らず、ある程度公的なお金を運用するとなると、このご時世、似たような悩みはついて回るでしょう。運用先が無い、というわけです。本当は無いわけではないのですが、もう少し正確に言うと、確定利回りの運用先が無い、ということなのでしょう。何事もリスクをとらないと収益はゼロ、という投資環境なのです。

本当は、TOPIXや日経平均のインデックスファンドでも買って放っておけば、配当で2%くらいは回るのです。私の感覚では、よほどのことが無い限りかなり確実です。ただだれもそれを保証する人はいませんし、年によって利回りは高くも低くもなるでしょう。かなり確実と思っても、私だってその運用をやれと言われたら、面倒だからお断りです。評価損が出るたびに、言い訳しなくてはならないからです。

もし世の中の多くの人が株式投資についてよく理解していれば、評価損が出たからと言っていちいち非難されたりすることは無いでしょう。利回りを稼ぎたいのなら、時々評価損が出るのは当たり前のことで、心配してもしょうがないということ。株価は企業の業績を表し、市場は経済の成果を表すということ。上場市場は国の経済活動を担うトップクラスの企業の集まりであること。これだけのことを、例えば国民の半分が理解していれば、そんなリスクさえとれないなんて、本来あり得ないと思うのです。

マスコミが不勉強なのは今に始まったことではありませんが、それは世間一般の反映でもあります。国や地方の政策を担うような人々であっても、株式市場に対する理解は怪しいと思わざるを得ません。株式市場に詳しくなってくれ、などと高い要求は致しません。せめて誰かが「リスク」を引き受けなければ、収益は上がらないのだ、ということだけでも理解する人が増えてもらわなければ困ります。

公的なお金を使っていても、収益が必要ならばリスクはついて回ります。しかし一瞬でも損が出るとはけしからぬ、というのが一般の感覚でしょう。現実は厳しいですね。資産運用に限りません。福祉についても似た様な事を感じます。税金を使うのだから、正しいものに使わなければならないという感覚。でも本当の弱者は「正しく」は見えないようなところに存在すると私は思います。どこから見ても誉められたものではない、という状況に、多くの弱者は置かれていると思うのです。

少々脱線しました。私は機会さえあれば、株式市場に関するお話をしていますが、それはこうした状況が、ほんの少しでも変わってほしいと思うからです。どの株が上がるかという話をする人は世の中にたくさんいらっしゃるでしょうから、そういう大変なお仕事は皆さんにお任せして、株式市場に対する理解を、それとともに「リスク」をとることに対する理解を広めるために、地味~に続けて行こうと思うわけです。

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高齢者の資産運用~外国株を買う? [投資スタイル]

私の両親は健在…というほど元気かどうかはともかく、たいへん高齢なので、お金の管理は資産運用も含めて、私が行っています。当然のことながら、私がそれらを現預金に置いておくわけも無いので、金融機関の営業から、何らかの金融商品を勧められることもあります。投信は買わないからね、と言ってありますが、最近であればアメリカ株を勧められたりはするわけです。

どこの国であっても、良い会社の株式であれば投資すればよいと思います。銘柄を選ぶに際して気にすることは、そう大きくは違いません。高齢者の資産運用であれば、将来の値上がりよりも資産価値を維持することを重視します。不確実な「将来性」にあまり依存せず配当を継続的に出せている企業を選びます。もちろん配当は収入としてありがたい、ということもありますし、経営の安定した企業を選ぶ指標にもなります。

企業の属する業界も考慮します。安定を重視するならば、事業の性格として安定した傾向にあるということは重視すべきです。いわゆるディフェンシブと呼ばれる業界ですね。生活必需品のメーカーや小売り、医療関連や、通信などの公共サービスといったところでしょうか。景気の波に大きく影響される業界や、技術革新が頻繁に起こって浮き沈みが激しいような業界は、高齢者の資産運用に向きません。

外貨資産であるということは、どういう意味があるでしょうか。通貨分散になるという考え方もあるでしょうが、少なくとも高齢者の資産運用であれば、通貨分散に積極的な意味は無いと考えます。外貨を持つことで何に備えているかと言えば、円が下がることに対して備えているわけです。円が下がった時に被る経済的不利益は、輸入品の価格が上がるであろうということですが、生活に影響が出るほどになるにはかなりの円安が続かなければならないでしょうから、少なくとも高齢者はあまり気にしなくて良いと思います。

円安の時に外貨を持っていないと「外貨で儲けそこなう」ことになりますが、円高になって「外貨で損をする」ことと比べれば、前者よりは後者を避けるべきでしょう。今後海外で暮らすことも無ければ、出かけることもそうそうは無いでしょうから、外貨建てで目減りしても困ることはありません。しかし円で減ってしまうのは困ります。かつては債券も株式も、海外のほうがはるかに高い利回りが期待できたので、通貨変動のリスクをとる価値もありましたが、今や利回りの差はかなり縮んでしまいました。

外貨を持たねばならないという気になるとすれば、それは分散というより、自国通貨に対する不安ではないでしょうか。日本人は割と悲観的になりやすいように思いますが、通貨価値というのは相対的なものです。日本の経済状況は決して褒められたものではありませんが、日本以外の多くの国はそれぞれ問題を抱えているものです。そして忘れないでほしいのは、通貨レートが基本的にインフレ率の差を反映するということです。自分の両親が存命の間、日本が海外を大幅に上回るようなインフレに見舞われる状況を、私は想像できません。為替は予想しない主義ですが、こうしたことを総合的に判断すれば、高齢者の口座で外貨を持つことは慎重であるべきでしょう。

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「労働分配率」の話 [市場と経済]

自民党の総裁選では、「成長か分配か」という議論が取り沙汰されました。分配するものが無いのに先に分配があるわけがないんで、それを無理に分配しようとするなら誰かの財産を切り分けなくちゃなりません。それ、共産主義革命ですよね。

それから「労働分配率」という話も登場しました。企業収益が伸びても、分け前は企業にとどまって労働者に分配されていない、という議論です。景気サイクル的な話をすれば、社員の賃金は硬直的で、企業収益ほど伸び縮みしませんから、企業が利益を減らせば労働分配率が上がり、増益ならば下がるというだけのことです。アベノミクス以降、労働分配率が下がっているというならば、企業収益が好調だと言っているのとあまり変わりません。

ただ、今の労働分配率はほぼ史上最低なんだそうです。それは昭和のバブル末期、あの熱狂の時代と同じレベルということです。あの時の企業収益は一種の異常値なわけですが、少なくとも今はそうではありません。企業がまっとうに努力した結果あげている収益と言っていいはずです。そして今後さらに伸びていくと考えることもごく自然でしょう。

では今後企業収益がさらに伸びて行くとすると、労働分配率はさらに下がるのでしょうか。今のままだったら、多分そうなるのでしょう。ではどうすればよいのか。私は、企業に解雇する自由を許すことだと思っています。逆のように聞こえるかもしれませんが、雇用の自由度を高めると言えば、少しは聞こえが良いでしょうか。

日本はずっと、企業に社会保障の多くを任せてきました。雇用に関しても、解雇させないことで失業を低く抑えてきました。企業が雇用の安定を保証していれば、景気が悪化してもそれが従業員に及ぶことはありません。せいぜいボーナスが減る程度でしょう。これは事業のリスクを企業が全面的に引き受けていて、労働者はリスクをとらなくて済んでいるということです。ですから景気が悪くなれば従業員にとってはありがたいけれど、その代わり調子が良くなれば、超過収益が企業のものになるのは、自由経済におけるリスクとリターンの原則からして当然でしょう。

経済が拡大する一方だった時代は、雇用を保障するコストも安かったでしょうけれど、経済が伸びるか縮むか分からない不透明な時代、リスクが大きいのですから、雇用を保障するコストは格段に高くなっています。これを続ければ、超過収益はリスクのコストを負担している企業のものになり続けます。労働分配率の低下、ってそういうことなんじゃないでしょうか。

コロナ禍でもそうでしたが、今も経済的なショックがあると、政府は「解雇しないこと」に対して補助金を出すなどして、企業に社会保障の役割を負わせ続けています。保障に忙しい日本企業は、リスクをとることがどんどんできなくなっているように見えます。企業を社会保障の責務から解放しないと、人材への投資だって思い切ってできないんじゃないでしょうか。超過収益は企業に入り続ける、それでいてその収益を必要な所へ投資するリスクがとれない、というわけです。

賃金上げてくださいなんてお願いしていないで、企業には雇用の自由を与え、雇用は安定していないのが普通だ、というように、政策の前提を変えることが、今必要な雇用改革だと思うんですけれどね。雇用は安定しているに越したことはないけれど、最初から安定を目的にしていると、成長は出来ないのでしょう。今だって雇用が安定しているのは一部の人に限られているのだから、そうではない人を中心に考える時が来ていると思うのです。非正規雇用問題などとは口で言うばかりで、ほとんど真面目に取り組んでいるようにも見えません。

ちょっと古いけれど関連記事⇒ 雇用の「安定」と「報酬」

タグ:雇用改革
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個人投資家バンザイ [投資スタイル]

私が仕事として株式の運用をしていた頃から、もうずいぶん月日が経ちました。今は基本的に自分の為にだけ、運用を続けています。

プロとして運用していた頃に比べれば、運用に使っている時間は当然少ないわけですが、運用に必要だと思うことしかしなくて良いと考えれば、使っている時間の差ほどの違いはないような気もします。運用機関の仕事は、単に運用するだけではありません。資産を預けてくれた人たちに、報告することも重要な仕事です。そのために、市況の解説や投資先の状況、投資判断の根拠や決定のプロセス、経済や金融市場の見通し等々、押さえておかなくてはならないことはたくさんあるわけです。

もし報告する必要が無いのならば、それらの一部はほとんど必要なかったり、ごく偶にアップデートすればよかったり、また必要であっても、概ね頭に入っていればよいということだったりします。どんな情報が必要かということは、もちろん投資のスタイルによっても違うでしょう。景気やマーケットのサイクルを見究めて売ったり買ったりするようなスタイルであれば、数か月~1年くらい先の予想は重要でしょうけれど、私の場合はそういうこともありません。良いと思う会社だけ買って放っておく、というスタイルです。

理想の投資対象は、右肩上がりに成長し続けてくれる会社です。リスクのレベルは高低色々とありますし、期待する成長のレベルもピンキリですが、サイクルがどう巡っていても、良い会社であれば持ち続けたいと思っているわけです。サイクルが悪い方に動くと思っても、売らずに放っておきます。良い会社だと思いながら売ってしまうと、もう一度買う、という仕事が増えますからね。しばらくパフォーマンスが上がらなくても、誰からもクレームは出ませんから気楽なものです。

自分の運用成績を正確に確かめたことはありませんが、使っている時間を考えれば、決して悪くはないという気がします。プロの運用のように会社訪問をしたり、専門家の話をじっくり聴いたりという機会は無いわけですが、昨今は情報格差もかなり縮まっています。売り買いする必要もあまりないので、コストもかかりません。もちろん銘柄選択によって、結果は良くも悪くもなるわけですが、欲張らず、奇をてらわず、基本に忠実にやることが大切なんじゃないでしょうか。そんな気楽な感じの株式投資は如何ですか? という気持ちでいつもこのブログを書いています。

ブログのほかに、Zoomでセミナーをやっています。株式投資・入門編、と言ったところですが、株式ってそもそも何? 資産運用ってどういうこと? というのがテーマと言えばテーマです。長年株式投資はしているけれど、聴いてみたら面白かった、と言ってくださる受講者も。

ご興味のある方はこちらまで。… 今日は最後は宣伝でした。

過去のブログ記事で、今日と似た様な事を書いています。→ 運用報告、要りません
タグ:個人投資家
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何年持てば「長期」なの? [投資スタイル]

株式に投資するなら長期投資しなさい、とは、巷でよく言われることです。本当は、「投資」というものはそもそも長期に決まっている、と言いたいところですが、株式投資と称して短期売買を繰り返す人がたくさんいるのも事実ですので、わざわざ「長期」と断らなければならないわけです。

では「長期投資」という時の「長期」は、どのくらいの時間軸なのでしょうか。たとえばNISAは5年の期限付きです。所管の金融庁は長期投資を推奨していたはずなので、5年は長期、ということなのでしょうか。

もちろん、数日や数週間といった期間で売り買いすることを思えば、長期と言えなくもありませんが、私にとって5年という期間は、一応「投資」と呼べるかな、という長さです。はっきりと決まりごとがあるわけではありませんが、長期と言うならば、少なくとも10年くらいは持っていたいものです。実際私が自分で投資する場合は、売ることを前提とせずに買います。できる限り持ち続けたいと思って投資するのです。

ところで、私は常に「良い会社」を選んで投資したいと思っています。その良い会社かどうかは、どうやって見分けているのでしょうか。個人の投資は極端な話、単なる好き嫌いでも許されるわけですが、やはりある程度その企業について調べて分析して、良し悪しを判断したいものです。その時に根拠となるのは、企業の公表している財務情報が基本です。

財務情報は、言うまでもないことですが、企業の業績を表すもので、その業績は年一回の本決算と、四半期決算によって明らかにされます。四半期決算も、アナリストなどの職業レベルではそれなりに重要だとは思いますが、業績には季節性もあることですし、業績の動向は年間の決算でフォローするのが普通です。業績の分析をする最低単位が1年というわけです。

会社の業績が良くなっている、悪くなっているというのは、年間の決算を比べて判断されます。四半期決算であれば、前年の同じ四半期と比べてその傾向を知ることになります。しかし前年より良くなるのは、経営が良いからとは限りません。景気動向の影響を受けるからです。そして景気というのは、一巡するのに5~10年というのが普通です。景気が一巡してみて初めて、会社が傾向的に伸びているのかどうか分かるというわけです。

投資の手法としては、会社の良し悪しよりも景気のサイクルを読むことに集中する、というやり方もあるでしょう。そうなると、私が考えるよりは投資の期間は短くなるイメージですね。私は景気のサイクルももちろん気にしますが、それよりも優秀な会社を探す方が良い成果を得られると思っています。良い会社にサイクルの底で投資出来れば、言うことありませんね。

ひとつ間違えないでいただきたいのは、投資の期間が長期のほうが短期よりも「リスクが低い」というわけではない、ということです。尤も、短期売買はリスクが高い、と感じてしまうのも無理はありません。なぜなら、短期的に収益を上げようとする投資家(投機家?)は、値動きの激しい銘柄、つまり銘柄の性格としてリスクの高いものを選ぶからです。銘柄選択から来るリスクとは別に、期間の長さもリスクとなるのです。

リスクが高いか低いかというのは、得られる結果の幅の大小で決まります。投資の結果、0になるかもしれないし100になるかもしれないものは、40から60の間に収まるものよりリスクが高い、ということです。1か月で株価が倍や半分になることはなかなかありませんが、期間が5年であれば、よくある話です。ですから、1か月より5年のほうが、リスクは高いのです。

ではリスクが高くても長期投資が推奨されるのは何故でしょうか。それは、短期ではよい会社かどうか、合理的に判断できないからです。株価は例えば3か月で何割も動くことはありますが、会社の価値がその間、何割も増えたり減ったりしているわけではありません。価値に基づかない株価の動きには、偶然の要素が多く含まれることになります。ですから、そこにかける投資はギャンブル性を帯びるのです。

そこが面白いから株式を買うのだという人もいると思いますし、それが悪いというつもりは全くありません。ただ、普通の個人が資産形成するという目的であれば、偶然の要素に頼る方法はあまり勧められないということです。

長期的に成長する会社を見つけることが出来れば、じっと保有しているだけで大きな成果が得られます。よしんばほとんど成長することが出来なくても、継続的に利益を上げている会社であれば、株主はその恩恵を受け続けることができるのです。株価は短期的には上がったり下がったり、時に激しく動くこともありますが、合理的な分析に基づいて投資すれば、長期的には会社の業績を反映した値動きをするのです。これが「価値」に基づく投資です。



タグ:長期投資
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資産運用、これから始める方へ

資産運用の経験が全くないという友人から、「興味があるので教えてほしい」と言われることは時々あります。と言っても、その「本気度」はピンからキリまであって、私の職業的バックグラウンドを知って話を合わせようとしているだけの場合もあれば、実際にやってみようという人もいます。

誠意をもって話をしているのに、右の耳から入ってすぐに左の耳から流れ出ているような反応をされると、やっぱりがっかりします。一方、私の話をきっかけに実践に移してくれると、話した甲斐があったと実感して、それは嬉しいものです。それで運用益が目に見えて上がっていれば、もちろんいうことはありません。

先日も6~7年前からの知り合いで、私よりも一回りか二回り若い男性ですが、久しぶりにお会いしたら、「口座をネット証券に移しました。」とおっしゃるんです。初めは全く金融商品を買ったことが無いというので、色々分からないことがあるだろうから、最初はケチらずに近所の証券会社の窓口で口座開いたら如何? というわけで、大手の証券会社で投資信託を買うことから始めたのです。

その後しばらくすると、株式を買ってみました、とおっしゃいます。銘柄はエムスリー。医療関係のお仕事をなさっているので、仕事柄よく知っている会社ということで選んだそうです。ここ2年ほどは絶好調です。それは良かったですねと言うと、「でも配当っていうのは、やっぱりいいっスねー。おススメに従ってREITも買ってるんです。」とのこと。(正確にはREITの場合は「分配金」です。)私がお話したことをよく理解し、そして実践し、またそれが上手く行っているというのが素晴らしい。本当に嬉しいことです。

そして、「慣れてきたので、手数料が安くて投信の品ぞろえが豊富なネット証券に変えました。」という報告です。いや、恐れ入りました。世の中には、有料のセミナーでせっせと学んでいるのになかなか実行に移せない、という向きも多いのではないかと思いますが、会話のついでにちょっとアドバイスしたことを、さっさと実践している人もいるんですね。当たり前のことですが、やってみなければ何事も始まりません。

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シーズン最後の集中日は、村田製作所 [株主総会]

昨日の村田製作所で、今シーズンの総会は打ち止め。映像を見ると、結構出席者がいらっしゃいますね。京都の会社なので、オンライン化のお陰で初めて参加が可能になりました。

株主に気を使う必要のない会社の一つ。エレクトロニクス業界で、多くの日本メーカーの存在感が希薄になった今も競争力を維持し、確固たる地位を守っています。ケチをつけるとすれば、保守的過ぎるバランスシートと株主還元方針ぐらいのものでしょう。

その昔、セラミックは陶磁器だから日本が得意なのだ、焼き物の技術だから部品を分解しても真似できないのだとどこかで読んで、なるほどと思いました。セラミック部品と言えばほかにTDKや京セラが大手ですが、セラミック部品の競争力を強化することに一番集中してきたのがこの会社だと言えるでしょう。株価は去年、ようやくドットコム・バブル時の高値を抜いて、上昇基調です。

株主の質問は、株式分割や自社株買いなど、株主還元に関わることが多いですね。でも、そういうことにはあまり熱心ではないのです。初めに言ったように、株主に媚びる必要がありませんから。質問にも、かなり正直に回答していたと思います。今は自社株買いよりも投資が大事だから、と。株主還元は配当中心が基本。DOE(株主資本配当率)4%以上…って、現時点で下限辺りですから、業績が悪化しても、配当が下がる可能性は極めて低いってことですね。

株式分割というのは、株価が高くなると、個人投資家にとって買いにくくなるので分割しよう、ということになるわけですが、こちらもあまりやりたくはなさそう。「株式分割の目的の一つは、株式の流動性を高めることでしょう? でも、うちの会社、これ以上流動性高める必要なんてあります?」と言われちゃうと、おっしゃる通りというしかありません。

事業環境について長い目で見ると、皆さん地政学リスク、つまり「中国」が心配なのです。でも、これは誰にとっても難しい問題です。機動的な対処に努める、というのが精いっぱい、奇策はありません。

最後は役員・管理職の女性比率についての質問です。女性管理職比率は現在8%。低いという認識はあるけれど、その辺の年代は女性の採用が少なかったんだからしょうがないという、これも正直なお答え。普通日本の大企業は皆そう思っているはずです。はっきりとは言いませんけどね。

基本は人種・性別にこだわらぬ人事、などというと極めてまっとうなようですが、女性の比率を上げようと思うならば、それでは足りないのです。「優秀な女性だから登用しよう」という意識では比率は多分上がりません。でもこの会社の目標は2030年度末までに10%ですから、特に意欲的というほどでもありません。先ほど株主還元に関して言及した「DOE 4%以上」というのと同じで、特段の努力をしなくても達成できる水準のように思えます。

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